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刹那の出来事
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「ここなら少々騒いでも誰にも聞こえないぜ」
「だから、困ってる俺達に施しをしてくれよ」
「お前の親、日本のホテル王なんだってな」
「金持ちは施しをするのが常識なんだよ?」
後席の真ん中で猿ぐつわを咬まされ両手を拘束された美千穂を、見るからにまともではない四人の男女が取り囲んでいた。前席に男が二人。後席で右側に男、左側に女が美千穂を挟んでいる。
どうやら美千穂がホテルオーナーの子女だと知り、身代金目的で誘拐したようだ。分かりやすいと言えばあまりにも分かりやすい<悪人>だった。まるで外国映画に出てくるチンピラである。
いや、本当に<チンピラ>なのだけれど。
ナイフや拳銃をちらつかせ脅しているという。
だが、狙った相手が悪かった。ミハエル達と親しくなった美千穂を狙うなど。
人間なら確かにこんなに簡単に見付けられなかっただろう。人間なら。
しかしミハエル達は人の理を超えた存在。<偉大なるノスフェラトゥ>。人間の常識は通じないのだ。
だから逃走を阻止するために先に自動車を破壊することなど造作もない。セルゲイがボンネットをこじ開け、悠里がプラグに通じるコードを引きちぎった。そうすると、当然、エンジンは完全に沈黙する。修理しない限りはもう永久に動くこともない。ただオイルにまみれた金属とプラスティックの塊だ。
「な…!?」
突然、自動車のボンネットが跳ね上がりコードが千切れ飛びエンジンが停止したことに、誘拐犯達は状況が掴めず呆然とした。だが驚いている暇すら与えない。
ミハエルの両手の爪先は杭打ち機の杭よりも固く鋭くなって、誘拐犯の女が座っていた側のドアに突き立て、そのままそれを掴んで力を加えると、ドアをボディに繋ぎとめていたヒンジが一瞬で捻じ切れてドアが外れた。
さらに反対側のドアの窓が破られ、男が持っていたナイフが外へと弾け飛び、それとほぼ同時に男の頭がドアの窓枠に押し付けられる。安和だった。三歳くらいの子供のような手なのに、まるで万力で締め上げられたかのように動かない。
一方ミハエルは、外したドアを放り出すと同時に女が手にしていた拳銃を奪って握り潰しそれも捨てて、何が起こっているのか理解できずに呆然としてる女を超えて美千穂を抱きかかえ、外へと連れ出した。
その間には、セルゲイと悠里が運転席と助手席の男を、安和がしたように窓を破って頭を掴み、窓枠へと押し付けている。
ここまで時間にして約一秒。人間ではロクに反応することもできないであろう刹那の出来事であった。
もっとも、これでもミハエル達にしてみれば精一杯手加減していたのだけれど。
「だから、困ってる俺達に施しをしてくれよ」
「お前の親、日本のホテル王なんだってな」
「金持ちは施しをするのが常識なんだよ?」
後席の真ん中で猿ぐつわを咬まされ両手を拘束された美千穂を、見るからにまともではない四人の男女が取り囲んでいた。前席に男が二人。後席で右側に男、左側に女が美千穂を挟んでいる。
どうやら美千穂がホテルオーナーの子女だと知り、身代金目的で誘拐したようだ。分かりやすいと言えばあまりにも分かりやすい<悪人>だった。まるで外国映画に出てくるチンピラである。
いや、本当に<チンピラ>なのだけれど。
ナイフや拳銃をちらつかせ脅しているという。
だが、狙った相手が悪かった。ミハエル達と親しくなった美千穂を狙うなど。
人間なら確かにこんなに簡単に見付けられなかっただろう。人間なら。
しかしミハエル達は人の理を超えた存在。<偉大なるノスフェラトゥ>。人間の常識は通じないのだ。
だから逃走を阻止するために先に自動車を破壊することなど造作もない。セルゲイがボンネットをこじ開け、悠里がプラグに通じるコードを引きちぎった。そうすると、当然、エンジンは完全に沈黙する。修理しない限りはもう永久に動くこともない。ただオイルにまみれた金属とプラスティックの塊だ。
「な…!?」
突然、自動車のボンネットが跳ね上がりコードが千切れ飛びエンジンが停止したことに、誘拐犯達は状況が掴めず呆然とした。だが驚いている暇すら与えない。
ミハエルの両手の爪先は杭打ち機の杭よりも固く鋭くなって、誘拐犯の女が座っていた側のドアに突き立て、そのままそれを掴んで力を加えると、ドアをボディに繋ぎとめていたヒンジが一瞬で捻じ切れてドアが外れた。
さらに反対側のドアの窓が破られ、男が持っていたナイフが外へと弾け飛び、それとほぼ同時に男の頭がドアの窓枠に押し付けられる。安和だった。三歳くらいの子供のような手なのに、まるで万力で締め上げられたかのように動かない。
一方ミハエルは、外したドアを放り出すと同時に女が手にしていた拳銃を奪って握り潰しそれも捨てて、何が起こっているのか理解できずに呆然としてる女を超えて美千穂を抱きかかえ、外へと連れ出した。
その間には、セルゲイと悠里が運転席と助手席の男を、安和がしたように窓を破って頭を掴み、窓枠へと押し付けている。
ここまで時間にして約一秒。人間ではロクに反応することもできないであろう刹那の出来事であった。
もっとも、これでもミハエル達にしてみれば精一杯手加減していたのだけれど。
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