116 / 697
刹那の出来事
しおりを挟む
「ここなら少々騒いでも誰にも聞こえないぜ」
「だから、困ってる俺達に施しをしてくれよ」
「お前の親、日本のホテル王なんだってな」
「金持ちは施しをするのが常識なんだよ?」
後席の真ん中で猿ぐつわを咬まされ両手を拘束された美千穂を、見るからにまともではない四人の男女が取り囲んでいた。前席に男が二人。後席で右側に男、左側に女が美千穂を挟んでいる。
どうやら美千穂がホテルオーナーの子女だと知り、身代金目的で誘拐したようだ。分かりやすいと言えばあまりにも分かりやすい<悪人>だった。まるで外国映画に出てくるチンピラである。
いや、本当に<チンピラ>なのだけれど。
ナイフや拳銃をちらつかせ脅しているという。
だが、狙った相手が悪かった。ミハエル達と親しくなった美千穂を狙うなど。
人間なら確かにこんなに簡単に見付けられなかっただろう。人間なら。
しかしミハエル達は人の理を超えた存在。<偉大なるノスフェラトゥ>。人間の常識は通じないのだ。
だから逃走を阻止するために先に自動車を破壊することなど造作もない。セルゲイがボンネットをこじ開け、悠里がプラグに通じるコードを引きちぎった。そうすると、当然、エンジンは完全に沈黙する。修理しない限りはもう永久に動くこともない。ただオイルにまみれた金属とプラスティックの塊だ。
「な…!?」
突然、自動車のボンネットが跳ね上がりコードが千切れ飛びエンジンが停止したことに、誘拐犯達は状況が掴めず呆然とした。だが驚いている暇すら与えない。
ミハエルの両手の爪先は杭打ち機の杭よりも固く鋭くなって、誘拐犯の女が座っていた側のドアに突き立て、そのままそれを掴んで力を加えると、ドアをボディに繋ぎとめていたヒンジが一瞬で捻じ切れてドアが外れた。
さらに反対側のドアの窓が破られ、男が持っていたナイフが外へと弾け飛び、それとほぼ同時に男の頭がドアの窓枠に押し付けられる。安和だった。三歳くらいの子供のような手なのに、まるで万力で締め上げられたかのように動かない。
一方ミハエルは、外したドアを放り出すと同時に女が手にしていた拳銃を奪って握り潰しそれも捨てて、何が起こっているのか理解できずに呆然としてる女を超えて美千穂を抱きかかえ、外へと連れ出した。
その間には、セルゲイと悠里が運転席と助手席の男を、安和がしたように窓を破って頭を掴み、窓枠へと押し付けている。
ここまで時間にして約一秒。人間ではロクに反応することもできないであろう刹那の出来事であった。
もっとも、これでもミハエル達にしてみれば精一杯手加減していたのだけれど。
「だから、困ってる俺達に施しをしてくれよ」
「お前の親、日本のホテル王なんだってな」
「金持ちは施しをするのが常識なんだよ?」
後席の真ん中で猿ぐつわを咬まされ両手を拘束された美千穂を、見るからにまともではない四人の男女が取り囲んでいた。前席に男が二人。後席で右側に男、左側に女が美千穂を挟んでいる。
どうやら美千穂がホテルオーナーの子女だと知り、身代金目的で誘拐したようだ。分かりやすいと言えばあまりにも分かりやすい<悪人>だった。まるで外国映画に出てくるチンピラである。
いや、本当に<チンピラ>なのだけれど。
ナイフや拳銃をちらつかせ脅しているという。
だが、狙った相手が悪かった。ミハエル達と親しくなった美千穂を狙うなど。
人間なら確かにこんなに簡単に見付けられなかっただろう。人間なら。
しかしミハエル達は人の理を超えた存在。<偉大なるノスフェラトゥ>。人間の常識は通じないのだ。
だから逃走を阻止するために先に自動車を破壊することなど造作もない。セルゲイがボンネットをこじ開け、悠里がプラグに通じるコードを引きちぎった。そうすると、当然、エンジンは完全に沈黙する。修理しない限りはもう永久に動くこともない。ただオイルにまみれた金属とプラスティックの塊だ。
「な…!?」
突然、自動車のボンネットが跳ね上がりコードが千切れ飛びエンジンが停止したことに、誘拐犯達は状況が掴めず呆然とした。だが驚いている暇すら与えない。
ミハエルの両手の爪先は杭打ち機の杭よりも固く鋭くなって、誘拐犯の女が座っていた側のドアに突き立て、そのままそれを掴んで力を加えると、ドアをボディに繋ぎとめていたヒンジが一瞬で捻じ切れてドアが外れた。
さらに反対側のドアの窓が破られ、男が持っていたナイフが外へと弾け飛び、それとほぼ同時に男の頭がドアの窓枠に押し付けられる。安和だった。三歳くらいの子供のような手なのに、まるで万力で締め上げられたかのように動かない。
一方ミハエルは、外したドアを放り出すと同時に女が手にしていた拳銃を奪って握り潰しそれも捨てて、何が起こっているのか理解できずに呆然としてる女を超えて美千穂を抱きかかえ、外へと連れ出した。
その間には、セルゲイと悠里が運転席と助手席の男を、安和がしたように窓を破って頭を掴み、窓枠へと押し付けている。
ここまで時間にして約一秒。人間ではロクに反応することもできないであろう刹那の出来事であった。
もっとも、これでもミハエル達にしてみれば精一杯手加減していたのだけれど。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます(Ver.02)
京衛武百十
ファンタジー
俺の名は錬是(れんぜ)。開拓や開発に適した惑星を探す惑星ハンターだ。
だが、宇宙船の故障である未開の惑星に不時着。宇宙船の頭脳体でもあるメイトギアのエレクシアYM10と共にサバイバル生活をすることになった。
と言っても、メイトギアのエレクシアYM10がいれば身の回りの世話は完璧にしてくれるし食料だってエレクシアが確保してくれるしで、存外、快適な生活をしてる。
しかもこの惑星、どうやらかつて人間がいたらしく、その成れの果てなのか何なのか、やけに人間っぽいクリーチャーが多数生息してたんだ。
地球人以外の知的生命体、しかも人類らしいものがいた惑星となれば歴史に残る大発見なんだが、いかんせん帰る当てもない俺は、そこのクリーチャー達と仲良くなることで残りの人生を楽しむことにしたのだった。
筆者より。
なろうで連載中の「未開の惑星に不時着したけど帰れそうにないので人外ハーレムを目指してみます」に若干の手直しを加えたVer.02として連載します。
なお、連載も長くなりましたが、第五章の「幸せ」までで錬是を主人公とした物語自体はいったん完結しています。それ以降は<錬是視点の別の物語>と捉えていただいても間違いではないでしょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる