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おかしいな
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とまあ、食事そのものは十分に満足したものの、さらに<食後のデザート>ということでカフェに五人で入った。
そこに入る前、
「ふわ~…」
アンゲリーナ(安和)が、まるで妊婦のようになった美千穂のお腹を見て声を上げた。
あれだけ食べたのだから当然か。
もっとも、彼女ほどではないにせよ相当な量を食べているはずのミハエル達の体型はほとんど変わっていない。と言うのも、人間とはまったく比べ物にならない速度で代謝が行われるので、食べるはしから分解されエネルギーに変換されて容積が縮小。一時的に体温が高くなり、余分な水分は汗として放出されるのだった。
こういう点からも吸血鬼やダンピールの身体機能が人間のそれとは根本的に違うものだというのが分かる。
アンゲリーナが自分のお腹を見ているのに気付いた美千穂は、
「あはは、赤ちゃんいるみたいですよね」
頬を染めながら照れくさそうに言った。そして、
「でも皆さんは全然スタイル崩れませんね。羨ましい」
本当に羨ましそうに言う。
「そういう体質なんです」
セルゲイが微笑みながら返すと、
「いいな~…」
と子供のように指を咥えつつ漏らすものの、それ以上は詮索してこなかった。
そういうところもミハエル達にとっては心地好かった。
『気持ちのいい人だな』
朗らかな美千穂に、ミハエルは素直にそう感じていた。
カフェに入ると、皆でケーキを頼み、アントニー(ミハエル)、ヴァレリー(悠里)、アンゲリーナ(安和)、美千穂はスムージー。セルゲイはコーヒーも併せて頼んだ。
今度はそれらをゆっくりと楽しみつつ、美千穂の話に耳を傾ける。
「私の家は日本でホテルチェーンを経営していて、フランス語を習おうと思ったのも、いずれ外国にも進出してというのもあったんです。だから、カナダの大学に来たのは、ここのホテル事情とかを見るというのもあったんですよね」
明るくそう語る美千穂だったものの、しかし彼女の表情から、セルゲイもアントニー(ミハエル)もそれだけではないものを感じ取っていた。さっきまでの朗らかな笑顔とは僅かに違って、やや作り笑顔に近い印象があったのである。
彼女は裏表のない人間だけれど、だからと言って何もかもを曝け出してしまうわけでもないということだろう。
かといって詮索するでもなく、セルゲイ達はただ彼女の言葉に耳を傾けた。
すると、
「あ…あれ……?」
美千穂の目から、突然、涙が溢れ出す。
「おかしいな。ゴミでも入ったのかな……」
そう言いながら彼女は涙を拭った。なのに、次から次に溢れて止まらない。
「ご、ごめんなさい…こんなの変ですよね……!」
慌てる彼女を、セルゲイ達は穏やかに見守っていたのだった。
そこに入る前、
「ふわ~…」
アンゲリーナ(安和)が、まるで妊婦のようになった美千穂のお腹を見て声を上げた。
あれだけ食べたのだから当然か。
もっとも、彼女ほどではないにせよ相当な量を食べているはずのミハエル達の体型はほとんど変わっていない。と言うのも、人間とはまったく比べ物にならない速度で代謝が行われるので、食べるはしから分解されエネルギーに変換されて容積が縮小。一時的に体温が高くなり、余分な水分は汗として放出されるのだった。
こういう点からも吸血鬼やダンピールの身体機能が人間のそれとは根本的に違うものだというのが分かる。
アンゲリーナが自分のお腹を見ているのに気付いた美千穂は、
「あはは、赤ちゃんいるみたいですよね」
頬を染めながら照れくさそうに言った。そして、
「でも皆さんは全然スタイル崩れませんね。羨ましい」
本当に羨ましそうに言う。
「そういう体質なんです」
セルゲイが微笑みながら返すと、
「いいな~…」
と子供のように指を咥えつつ漏らすものの、それ以上は詮索してこなかった。
そういうところもミハエル達にとっては心地好かった。
『気持ちのいい人だな』
朗らかな美千穂に、ミハエルは素直にそう感じていた。
カフェに入ると、皆でケーキを頼み、アントニー(ミハエル)、ヴァレリー(悠里)、アンゲリーナ(安和)、美千穂はスムージー。セルゲイはコーヒーも併せて頼んだ。
今度はそれらをゆっくりと楽しみつつ、美千穂の話に耳を傾ける。
「私の家は日本でホテルチェーンを経営していて、フランス語を習おうと思ったのも、いずれ外国にも進出してというのもあったんです。だから、カナダの大学に来たのは、ここのホテル事情とかを見るというのもあったんですよね」
明るくそう語る美千穂だったものの、しかし彼女の表情から、セルゲイもアントニー(ミハエル)もそれだけではないものを感じ取っていた。さっきまでの朗らかな笑顔とは僅かに違って、やや作り笑顔に近い印象があったのである。
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かといって詮索するでもなく、セルゲイ達はただ彼女の言葉に耳を傾けた。
すると、
「あ…あれ……?」
美千穂の目から、突然、涙が溢れ出す。
「おかしいな。ゴミでも入ったのかな……」
そう言いながら彼女は涙を拭った。なのに、次から次に溢れて止まらない。
「ご、ごめんなさい…こんなの変ですよね……!」
慌てる彼女を、セルゲイ達は穏やかに見守っていたのだった。
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