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野生のフードファイター

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たまたま同じ店に居合わせた日本人らしき女性が自分達の方に意識を向けたことにミハエルは気付いていたものの、視線を向けたりはしなかった。スルーすることで関わりを避けてくれるのならそれでいいと考えたからである。

しかし女性は、ちらちらとミハエルたちの方に何度も視線を向けてきた。さすがに気になっているようだ。

こうなるともう向こうから関わってくることも多いものの、それ自体は仕方ないと諦めている。

ただ、よく見るとその女性のテーブルに並べられている料理の数々も、明らかに女性が一人で食べるには普通じゃない量であり、他に連れがいる様子もなく、その女性が一人で食べるために用意されたものと思われた。

『……フードファイターかな……?』

視線は向けずに意識だけは向けてそんなことを考えるミハエルの前で、その女性もやはりミハエル達をちらちらと見ながらも自分の前に並べられた料理を見る見る口に押し込んでいった。

その様子に、店内には異様な空気が漂った。

一見すると華奢にも見える若い日本人らしき女性が、とてつもない量の料理を当たり前のように平らげていくのだから、無理もない。

そのおかげで、ミハエル達の方はすっかり目立たなくなってしまった。

「すっげぇ……」

さすがに悠里ユーリもその女性に気付いて思わず声を漏らす。

「まさか、吸血鬼じゃないよね……?」

安和アンナも唖然とした様子で、ミハエル達だけに聞こえる小さな声でそう言った。

しかし、セルゲイは女性の方には視線を向けずに、

「彼女は人間だよ。間違いない。吸血鬼なら僕やミハエルには分かる」

やはり自分達にだけ聞こえる小さな声で告げる。それにミハエルも頷いた。

「セルゲイの言うとおりだと思う。彼女からは人間の気配しか伝わってこない。ウェアウルフとかとも違う。

それにあきらでもあそこまでは食べないよ。

やっぱりフードファイターじゃないかな」

ミハエルの言葉に、悠里は、

「マジ? 初めて見た」

驚きを隠せない。

テレビでは時々、ドッキリ企画のようなもので一般人のフリをしたフードファイターが途方もないパフォーマンスを見せて周囲の人間を驚かすという番組も見たことあるものの、悠里と安和が周囲を窺ってもどこにもテレビカメラらしきものは見付けられなかった。

「テレビとかで見た顔じゃないし、野生のフードファイター…?」

安和が呟くと、悠里はまた、

「スゲー……」

と声を漏らした。

そんなこんなで、とにかく店の客達の注目はすっかりその女性に集まり、結果としてミハエル達はゆっくりと食事を楽しむことができたのだった。

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