97 / 697
自分に正直に生きたからこそ
しおりを挟む
『自分に正直に生きる』
よく良い意味で使われるその言葉の危険性を、蒼井家と月城家の者達はよく知っていた。
なぜなら、自分に正直だったからこそ、エンディミオンを生み出した吸血鬼は彼を実験動物のように扱ったし、自分に正直だったからこそエンディミオンは吸血鬼と吸血鬼に与する人間を憎み、この世からすべて排除することを望んだ。
それぞれが自分に正直に生きたからこそ誰も幸せになれなかった。
だから、正直になっていい感情とそうでない感情とがこの世にはあるのだという何よりの証拠だという実感があった。
耳に心地好い言葉というやつは、麻薬のように人を惑わすのだろう。
それを知っているからこそ、蒼井家の者達も月城家の者達も、その場の感情に流されないことを心掛けている。誰かを傷付けようという感情には、特に。
エンディミオンと十分に会話ができていないことに不満を覚えているさくらも、そこで感情的になってまるで自分だけが被害者であるかのように振る舞ったりしないからこそ、傷口を広げずに済んでいる。
彼を選んだのは他でもない自分自身だという事実から、さくらは目を背けることはない。
彼を伴侶に選んだ時点で自分も彼に負担を強いているという事実から目を背けることをせず、自分が一方的な被害者であるかのように振る舞うこともしない。
共に生きるリスクを承知の上で彼と共に生きることを選んだ時点で、さくらはある意味では<共犯者>でもあった。彼女はその事実を認めている。
それを思えば、多少の不満など本当に些細なものでしかなかった。
故に目先の感情に囚われずに済んでいる。
『伴侶が話を聞いてくれない。口をきいてくれない』
それは確かに好ましいことじゃないだろう。コミュニケーションも満足に取れない家族など、不貞を働く伴侶など、果たして一緒に暮らしている意味があるのか?というくらいの問題だと思われる。
けれど、さくらは、彼がそういうのが極めて苦手ということを分かっていてその上で選んだ。だから彼の所為にはしない。
その一方で、エンディミオン自身、さくらに押し切られた形とはいえ、最終的に受け入れたのは自分なのだから、多少の不平不満はあっても、それを彼女の所為にはしない。
少なくとも、普段の情動の中では。
実を言うと彼が自身の奥深いところに押し込めている部分ではまた別の<想い>もあるものの、今はそちらについては、表面上は重要ではなかった。
とにかく、自分の責任において相手を選んだ以上、二人はやはり<共犯者>の関係にある。
なにしろ、
『別れたければ別れていい』
という大前提があるのだから。
よく良い意味で使われるその言葉の危険性を、蒼井家と月城家の者達はよく知っていた。
なぜなら、自分に正直だったからこそ、エンディミオンを生み出した吸血鬼は彼を実験動物のように扱ったし、自分に正直だったからこそエンディミオンは吸血鬼と吸血鬼に与する人間を憎み、この世からすべて排除することを望んだ。
それぞれが自分に正直に生きたからこそ誰も幸せになれなかった。
だから、正直になっていい感情とそうでない感情とがこの世にはあるのだという何よりの証拠だという実感があった。
耳に心地好い言葉というやつは、麻薬のように人を惑わすのだろう。
それを知っているからこそ、蒼井家の者達も月城家の者達も、その場の感情に流されないことを心掛けている。誰かを傷付けようという感情には、特に。
エンディミオンと十分に会話ができていないことに不満を覚えているさくらも、そこで感情的になってまるで自分だけが被害者であるかのように振る舞ったりしないからこそ、傷口を広げずに済んでいる。
彼を選んだのは他でもない自分自身だという事実から、さくらは目を背けることはない。
彼を伴侶に選んだ時点で自分も彼に負担を強いているという事実から目を背けることをせず、自分が一方的な被害者であるかのように振る舞うこともしない。
共に生きるリスクを承知の上で彼と共に生きることを選んだ時点で、さくらはある意味では<共犯者>でもあった。彼女はその事実を認めている。
それを思えば、多少の不満など本当に些細なものでしかなかった。
故に目先の感情に囚われずに済んでいる。
『伴侶が話を聞いてくれない。口をきいてくれない』
それは確かに好ましいことじゃないだろう。コミュニケーションも満足に取れない家族など、不貞を働く伴侶など、果たして一緒に暮らしている意味があるのか?というくらいの問題だと思われる。
けれど、さくらは、彼がそういうのが極めて苦手ということを分かっていてその上で選んだ。だから彼の所為にはしない。
その一方で、エンディミオン自身、さくらに押し切られた形とはいえ、最終的に受け入れたのは自分なのだから、多少の不平不満はあっても、それを彼女の所為にはしない。
少なくとも、普段の情動の中では。
実を言うと彼が自身の奥深いところに押し込めている部分ではまた別の<想い>もあるものの、今はそちらについては、表面上は重要ではなかった。
とにかく、自分の責任において相手を選んだ以上、二人はやはり<共犯者>の関係にある。
なにしろ、
『別れたければ別れていい』
という大前提があるのだから。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる