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出逢いの妙
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初めて会った頃のエンディミオンは、殺意も敵意もまったく隠す気がなかった。ただひたすら自分の憎悪にだけ忠実な、まさに<伝説の悪鬼>だった。
そんな彼がどうしてさくらの言葉にだけは耳を傾けたのか……?
実はその点については、エンディミオン自身にも分からない。
と言うより、彼自身はさくらの言葉に耳を傾けたつもりなどなかったらしい。単に気まぐれを起こしただけだと自分では思ってるそうだった。
なのでこればかりは、まさに、
<出逢いの妙>
<偶然の産物>
としか言いようがないのかもしれない。なぜか彼に届く言葉を発することができるさくらと彼が偶然出逢ってしまったということなのだろうか。
けれど、出逢いそのものは偶然でも、なぜさくらの言葉が届いたのかは、二人を客観的に見てきたアオだからこそ推測できる部分はあった。
これはもう、
『さくらが彼を受け止めたから』
の一言に尽きるだろうとアオは思っていた。
それまでは<忌まわしい存在>としてただただ嫌悪されてきた彼が、ようやく見付けた、
<自分自身を受け止めてくれる存在>
が、さくらだったのだと。
さくらは、何か綺麗事を彼に言っていたわけではなかった。
『あなたの罪をすべて許します』
とか、
『あなたにも生きる権利はある』
とか、口先だけの綺麗な言葉を発していたわけじゃなかった。
しかしそれと同時に、彼の暴力的な気配には怯え身を竦めながらも彼に対して<憎しみ>はぶつけていなかった気がする。
ミハエルに敵意を向けてアオまで傷付けようとするような彼の振る舞いには憤っても、彼自身を憎んだり蔑んだりはしていないという印象があった。
他人を傷付けるのは良くないこととしながらも、彼自身がそれまでどれだけ傷付けられてきたかという点について目を瞑ることもなかった。
こう言うと、『あなたの罪をすべて許します』とか『あなたにも生きる権利はある』とかの綺麗事を並べているようにも聞こえるかもしれないけれど、そうではなかった。
彼の振る舞いについては決して許していないけれど、事実は事実として認めると言うか……
この辺りはニュアンスを伝えるのが非常に難しい。最初から理解する気のない人間には伝わらないことだろう。
ただ、さくらは、許せないことは許せないとしながらも、彼のことを理解しようとはしていた。
彼の苦しみを、痛みを、悲しみを、憎しみを、ただあるがまま受け止め、その上で、
『私の大切な人達を傷付けないで』
という態度だけははっきりさせていたように思えた。
それが、彼に、
<大切なものを奪われる痛み>
を思い出させたのかもしれない。
そんな彼がどうしてさくらの言葉にだけは耳を傾けたのか……?
実はその点については、エンディミオン自身にも分からない。
と言うより、彼自身はさくらの言葉に耳を傾けたつもりなどなかったらしい。単に気まぐれを起こしただけだと自分では思ってるそうだった。
なのでこればかりは、まさに、
<出逢いの妙>
<偶然の産物>
としか言いようがないのかもしれない。なぜか彼に届く言葉を発することができるさくらと彼が偶然出逢ってしまったということなのだろうか。
けれど、出逢いそのものは偶然でも、なぜさくらの言葉が届いたのかは、二人を客観的に見てきたアオだからこそ推測できる部分はあった。
これはもう、
『さくらが彼を受け止めたから』
の一言に尽きるだろうとアオは思っていた。
それまでは<忌まわしい存在>としてただただ嫌悪されてきた彼が、ようやく見付けた、
<自分自身を受け止めてくれる存在>
が、さくらだったのだと。
さくらは、何か綺麗事を彼に言っていたわけではなかった。
『あなたの罪をすべて許します』
とか、
『あなたにも生きる権利はある』
とか、口先だけの綺麗な言葉を発していたわけじゃなかった。
しかしそれと同時に、彼の暴力的な気配には怯え身を竦めながらも彼に対して<憎しみ>はぶつけていなかった気がする。
ミハエルに敵意を向けてアオまで傷付けようとするような彼の振る舞いには憤っても、彼自身を憎んだり蔑んだりはしていないという印象があった。
他人を傷付けるのは良くないこととしながらも、彼自身がそれまでどれだけ傷付けられてきたかという点について目を瞑ることもなかった。
こう言うと、『あなたの罪をすべて許します』とか『あなたにも生きる権利はある』とかの綺麗事を並べているようにも聞こえるかもしれないけれど、そうではなかった。
彼の振る舞いについては決して許していないけれど、事実は事実として認めると言うか……
この辺りはニュアンスを伝えるのが非常に難しい。最初から理解する気のない人間には伝わらないことだろう。
ただ、さくらは、許せないことは許せないとしながらも、彼のことを理解しようとはしていた。
彼の苦しみを、痛みを、悲しみを、憎しみを、ただあるがまま受け止め、その上で、
『私の大切な人達を傷付けないで』
という態度だけははっきりさせていたように思えた。
それが、彼に、
<大切なものを奪われる痛み>
を思い出させたのかもしれない。
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