89 / 697
交通当番
しおりを挟む
PTAとしての活動は、何も役員や委員だけじゃない。一応、<自主参加>という建前はあるけれど、通学路の中でも比較的危険と思われる交差点などでの<交通当番>については、原則、保護者は全員参加とされていた。
これも、昔は祖父母なども同居していたならそちらに協力を頼むことはできたかもしれないが、核家族化が進んだ現在では親がやることになる場合が多い。
仕事などがあると大変ではあるものの、<核家族で共働き>や<シングル家庭>というものも多い昨今では、
『仕事がある』
というのはどの家庭も同じということで、免除の理由にはならなかった。
ましてや、アオのように在宅仕事となれば時間の都合もつけやすいので、なおのことだ。
アオ自身も、その辺りは承知していた。
だから、二ヶ月に一回程度の割合で回ってくるそれについても、
『面倒臭いなあ…』
とは思いながらも当番の日には、信号のない交差点に、ベテランの交通指導員の女性と共に旗を持って立ち、通学する子供達を誘導する。
最近の子供はおとなしい子が多いらしくて、
「おはようございます」
とアオが声を掛けても返事をしてくれない子も少なくなかったものの、被害児童が通う学校のPTAの役員が誘拐犯だったという事件があったりもした昨今、同じ学校の生徒の保護者だからといって無条件に信用はできないというのも当然だと感じ、それについては気にしていなかった。
『すべての生徒が、品行方正、清廉潔白、明朗快活で元気よく笑顔で、『おはようございます!』と大きな声で挨拶してくれるなんていう学校とか、空想の中にしか存在しないよね。
むしろそんなのが存在したら、嘘くさくて気持ち悪いって感じてしまいそう……」
とも思ってしまった。
だからそれ自体は気にならない。
ただ、ある日、
「ごめんね~、ちょっと待っててね」
自動車が近付いてきたのでそちらを先に行かせようと、旗を掲げて集団登校の列の前に立った時、二年生か三年生くらいの男の子が、
「どけよ!」
と声を上げてアオの横をすり抜け、横断してしまった。
幸い、自動車のドライバーがそれに気付いて速度を落としてくれたので事なきを得たものの、タイミングが悪ければ事故になっていた事例だった。
アオは咄嗟には何もできなかったものの、ベテランの交通指導員の女性が、その男の子に、
「自動車が来てたでしょ? ちゃんと指示に従ってね」
と声を掛けると、その男の子は、
「オレがはねられたらお前らの責任だ!」
と吐き捨てて走り去ってしまう。
「……」
あまりのことに呆然とするアオに、女性は、
「たまにこういうこともあるから、気にしないで」
と言ってくれた。
『家で何かあったのかな……』
その男の子のことはこれまでにも何度か見かけたものの、今までは挨拶しても返事をしなかっただけだった。なのに今日はあの態度。
しかもいつも不機嫌そうな表情をしてたことで、なんとなく見覚えがあったのだった。
これも、昔は祖父母なども同居していたならそちらに協力を頼むことはできたかもしれないが、核家族化が進んだ現在では親がやることになる場合が多い。
仕事などがあると大変ではあるものの、<核家族で共働き>や<シングル家庭>というものも多い昨今では、
『仕事がある』
というのはどの家庭も同じということで、免除の理由にはならなかった。
ましてや、アオのように在宅仕事となれば時間の都合もつけやすいので、なおのことだ。
アオ自身も、その辺りは承知していた。
だから、二ヶ月に一回程度の割合で回ってくるそれについても、
『面倒臭いなあ…』
とは思いながらも当番の日には、信号のない交差点に、ベテランの交通指導員の女性と共に旗を持って立ち、通学する子供達を誘導する。
最近の子供はおとなしい子が多いらしくて、
「おはようございます」
とアオが声を掛けても返事をしてくれない子も少なくなかったものの、被害児童が通う学校のPTAの役員が誘拐犯だったという事件があったりもした昨今、同じ学校の生徒の保護者だからといって無条件に信用はできないというのも当然だと感じ、それについては気にしていなかった。
『すべての生徒が、品行方正、清廉潔白、明朗快活で元気よく笑顔で、『おはようございます!』と大きな声で挨拶してくれるなんていう学校とか、空想の中にしか存在しないよね。
むしろそんなのが存在したら、嘘くさくて気持ち悪いって感じてしまいそう……」
とも思ってしまった。
だからそれ自体は気にならない。
ただ、ある日、
「ごめんね~、ちょっと待っててね」
自動車が近付いてきたのでそちらを先に行かせようと、旗を掲げて集団登校の列の前に立った時、二年生か三年生くらいの男の子が、
「どけよ!」
と声を上げてアオの横をすり抜け、横断してしまった。
幸い、自動車のドライバーがそれに気付いて速度を落としてくれたので事なきを得たものの、タイミングが悪ければ事故になっていた事例だった。
アオは咄嗟には何もできなかったものの、ベテランの交通指導員の女性が、その男の子に、
「自動車が来てたでしょ? ちゃんと指示に従ってね」
と声を掛けると、その男の子は、
「オレがはねられたらお前らの責任だ!」
と吐き捨てて走り去ってしまう。
「……」
あまりのことに呆然とするアオに、女性は、
「たまにこういうこともあるから、気にしないで」
と言ってくれた。
『家で何かあったのかな……』
その男の子のことはこれまでにも何度か見かけたものの、今までは挨拶しても返事をしなかっただけだった。なのに今日はあの態度。
しかもいつも不機嫌そうな表情をしてたことで、なんとなく見覚えがあったのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
陽香は三人の兄と幸せに暮らしています
志月さら
キャラ文芸
血の繋がらない兄妹×おもらし×ちょっとご飯ものなホームドラマ
藤本陽香(ふじもと はるか)は高校生になったばかりの女の子。
三人の兄と一緒に暮らしている。
一番上の兄、泉(いずみ)は温厚な性格で料理上手。いつも優しい。
二番目の兄、昴(すばる)は寡黙で生真面目だけど実は一番妹に甘い。
三番目の兄、明(あきら)とは同い年で一番の仲良し。
三人兄弟と、とあるコンプレックスを抱えた妹の、少しだけ歪だけれど心温まる家族のお話。
※この作品はカクヨムにも掲載しています。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
巻き込まれ召喚された賢者は追放メンツでパーティー組んで旅をする。
彩世幻夜
ファンタジー
2019年ファンタジー小説大賞 190位!
読者の皆様、ありがとうございました!
婚約破棄され家から追放された悪役令嬢が実は優秀な槍斧使いだったり。
実力不足と勇者パーティーを追放された魔物使いだったり。
鑑定で無職判定され村を追放された村人の少年が優秀な剣士だったり。
巻き込まれ召喚され捨てられたヒカルはそんな追放メンツとひょんな事からパーティー組み、チート街道まっしぐら。まずはお約束通りざまあを目指しましょう!
※4/30(火) 本編完結。
※6/7(金) 外伝完結。
※9/1(日)番外編 完結
小説大賞参加中
私のおウチ様がチートすぎる!!
トール
恋愛
病死後、魔物の蔓延る森へ転生していた藤井かなで(41→15)。
今度こそ結婚して家庭を築きたい! と思っていたのに、最弱過ぎて森から出られない!?
魔法は一切使えない最弱主人公が、唯一持っているスキル“家召喚”。ただ家を建てるだけのスキルかと思ったら、最強スキルだった!?
最弱な主人公とチートすぎるおウチ様が、美味しいご飯を餌に、森に捨てられた人を拾っていつの間にか村を作っちゃうハートフルホームファンタジー開幕。
※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
バンド若草物語の軌跡
みらいつりびと
キャラ文芸
親から勉強を強いられていた高瀬みらいは、進学校桜園学院高等学校に入学した。そこで出会ったクラスメイトとバンド若草物語を組むことになる。
作詞の奇才と作曲の天才と編曲の才媛のバンドの軌跡を描いた物語。イエロー・マジック・オーケストラに憧れた高校生たちはメジャーデビューできるのか?
夢を見つけ、夢に挑み、夢を叶える。それが理想だけれど、多くの人の夢は破れる……。
この小説はスマホもパソコンもない1980年頃の日本をイメージして書いています。
なお、本作はフィクションであり、実在の人物、音楽グループ、学校等とは関係はありません。似ている人がいたとしても、ちがうんですう!
毎日記念日小説
百々 五十六
キャラ文芸
うちのクラスには『雑談部屋』がある。
窓側後方6つの机くらいのスペースにある。
クラスメイトならだれでも入っていい部屋、ただ一つだけルールがある。
それは、中にいる人で必ず雑談をしなければならない。
話題は天の声から伝えられる。
外から見られることはない。
そしてなぜか、毎回自分が入るタイミングで他の誰かも入ってきて話が始まる。だから誰と話すかを選ぶことはできない。
それがはまってクラスでは暇なときに雑談部屋に入ることが流行っている。
そこでは、日々様々な雑談が繰り広げられている。
その内容を面白おかしく伝える小説である。
基本立ち話ならぬすわり話で動きはないが、面白い会話の応酬となっている。
何気ない日常の今日が、実は何かにとっては特別な日。
記念日を小説という形でお祝いする。記念日だから再注目しよう!をコンセプトに小説を書いています。
毎日が記念日!!
毎日何かしらの記念日がある。それを題材に毎日短編を書いていきます。
題材に沿っているとは限りません。
ただ、祝いの気持ちはあります。
記念日って面白いんですよ。
貴方も、もっと記念日に詳しくなりません?
一人でも多くの人に記念日に興味を持ってもらうための小説です。
※この作品はフィクションです。作品内に登場する人物や団体は実際の人物や団体とは一切関係はございません。作品内で語られている事実は、現実と異なる可能性がございます…
折々再々
ハコニワ
キャラ文芸
※この作品はフィクションです。
産み落とされ、創造し、何度でも繰り返す。名前もないソレは、広大な宇宙で旅をしていた。いつしか、感情や温もりを知り、全知を創造した。ソレから始まった物語は後世へ渡り、様々な登場人物に〝再々〟を与える。
キャッチコピー〈魂を識る〉
〈産み落とされ、創造し、何度でも繰り返す〉
Sonora 【ソノラ】
隼
キャラ文芸
フランスのパリ8区。
凱旋門やシャンゼリゼ通りなどを有する大都市に、姉弟で経営をする花屋がある。
ベアトリス・ブーケとシャルル・ブーケのふたりが経営する店の名は<ソノラ>、悩みを抱えた人々を花で癒す、小さな花屋。
そこへピアニストを諦めた少女ベルが来店する。
心を癒す、胎動の始まり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる