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専門家に任せた

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こうして一週間、ジャカルタに滞在した後、ミハエル達は今度はトロントへと移動した。

カナダは昆虫についてはあまり熱心ではないお国柄らしく、その分、研究も盛んではないそうだ。

と言っても、非常に盛んな地域と比べればという話であって、もちろん研究している人間はいる。

なお、カナダは自然保護については非常に熱心な国なので、外来種の生き物を放つことを固く禁じているのをはじめ、持ち出しはおろか採集も厳しく規制されている。

それでも、セルゲイはあくまで研究のために観察するだけというのもあり、むしろ現地の関係者には信頼されていた。加えて、密猟者の摘発に協力したことも一度や二度ではない。

しかし、ジャカルタでの一件もそうだったように、いきなり当局へ突き出したりすることも基本的にはない。

とは言え、逆切れして攻撃してきたりすれば吸血鬼としての身体能力を活かして『なるべく穏やかに』制圧。後は地元警察に任せるということも何度かあった。

「もしそういうことがあれば悠里ユーリは身を隠してくれていたらいいからね」

「分かった」

ホテルに入ったと同時に、セルゲイは悠里に注意事項として告げる。もっともこれは、

『悠里を危険に晒さないため』

というよりは、

『悠里に人間を害させないため』

と言った方が正しいだろう。見た目には三歳くらいの幼児のような悠里でも、個人が携行できる程度の武器を所持した人間ではまったく敵わない、人間が銃を構えて狙いをつけて引き金を引くより早く、悠里ユーリはその人間を打ち倒すことができてしまうからだ。

逆に、未熟な悠里では手加減を間違えて相手を傷付けてしまうこともある。実際、ジャカルタでの一件でも、悠里は逃げようとする密猟者(らしき者)に咄嗟に飛び付いてしまい、危うく怪我をさせるところだったくらいだ。

それを避けたいということだった。

人間はそういう話になると単純に、

『密猟するような奴が悪いんじゃん!』

というような話にもっていきたがるが、世の中がそんな単純なら誰も苦労はしないし、世の中の問題の半分はそもそも問題自体が起こっていないだろう。

ジャカルタでの件も、セルゲイは、あのササキ・ジロウと名乗った青年が本心から望んであのようなことをしていたのではないだろうと察していた。望んでやっている人間の態度ではなかったからだ。

誰かに命じられた何かで、やむを得ずあのようなことをしていた可能性が高い。

そのように、<本当に悪い奴>に操られているだけの人間をいくら責めたところで、枝葉に構っている間に命令を出した人間は逃げてしまうだけだ。それよりは泳がせて背後を探るのがセオリーだろう。

しかしセルゲイは捜査のプロではない。

だからジャカルタでも、現地の関係者に、人相書きを渡し詳細を伝え、後は専門家に任せたのだった。

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