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神様は不公平

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ミハエルは決して聖人君子じゃない。ただ、苦しんでる人間を目の前にすると見て見ぬフリができないだけだ。

今は自分にも子供がいるから、余計に見捨てては置けなかった。

その子供は衰弱していた。このままにしておけば数日後には本当に冷たくなっていただろう。

近くの店でスポーツドリンクを買い、

「飲める?」

その子供の口にそっと触れさせた。すると小さく口を動かし、飲んだ。

「……」

少し様子を見ていると、ハッと体を起こしてひったくるようにしてスポーツドリンクのペットボトルを自分で掴んで、ごくごくと飲み始める。

「慌てなくてもいいよ。それは君のだから」

ミハエルはその子に対して、まずインドネシア語で話し掛けた。けれどその時の反応で、通じてないと察し、今度は、

「大丈夫だよ」

ベタウィ語で話しかける。ジャカルタがオランダの植民地だった頃に話されていたと言われている言語だった。すると、

「!?」

驚いたように視線だけミハエルに向けてからすぐ背を向けた。意味は通じたものの信用されなかったのが分かる。

公用語であるはずのインドネシア語が通じなかったことから、おそらくこれまでまったく教育と呼べるものを受けてこなかったことが推測された。

取られまいとしてペットボトルをしっかりと掴みミハエルに背を向けて懸命に飲むその子を、どこか悲しげな瞳で見詰めながら、ミハエルは言った。

「…僕はたまたまつてがあったからこの子に手を差し伸べたけど、安和アンナは真似しなくてもいいからね。具体的に状況を変えることができる手立てもないのにその場限りで手を差し伸べたって、苦しむ時間を長引かせるだけだから……」

「……うん…」

それは、たくさんの命を見届けてきたミハエルだからこその言葉だった。単なる思い付きで、先の展望のない同情心を向けるのがどれほど残酷なことかを知るミハエルだからこその。

安和も、ミハエルがなぜそんなことを言ったのかは分かっている。

でも、積極的に、

『困ってる人は助けてあげて』

と言わない、言えないことは素直に悲しいと思った。

「パパ…神様は不公平だね……私はパパの子供に生まれられたのに、この子はそうじゃないんだもん……」

ある意味ではこの世の真理を突くかのような我が子の言葉に、子を持つ親としてのミハエルも、胸が痛んだ。

「そうだね……

だけど……

だけどこうして出逢えたことはこの子にとって大きな転機になるかもしれない。

この子は今日、僕に出逢えた。でも、この子と同じような境遇にある他の子達は出逢えなかった。

それも<不公平>だよね……」

程なくして救急車が来て、その子供を収容していった。

もちろんミハエルと安和は気配を消してその場を離れ、救急車に乗せられる様子を見届けたのだった。

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