ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
59 / 697

これいい!

しおりを挟む
渋滞に巻き込まれた自動車よりもずっと早く、ミハエルと安和アンナは目的の場所に来ていた。

そこは、基本的には地元の人間が多く、外国人はあまり来ないショッピングセンターだった。なるほど外国人向けの、綺麗に整えられすぎてむしろどこの国なのか分からなくなってしまっているようなところとは趣きが違っていた。

民族衣装やそれに合わせたアクセサリーが店頭に並んでいる。

「わあ♡」

独特の空気感に、安和のテンションが上がる。

そこを、基本的には気配を消した状態で見て回った。

「あ、これいい!」

そして『これ』と思うものがあれば、たまたまそこに居合わせた他の客の連れのように振る舞い、堂々と買った。お金を出すのはもちろんミハエルである。

安和自身のために買うものであれば自分で出してもらうけれど、今回のはそうじゃなかった。<バティック>と呼ばれる、まるで夢に出てくるような不可思議な模様の布地で作られたワンピースだ。アオと椿つばきへのお土産のためだった。

先のイルカのブローチと合わせて送る。

「正直、普段使いにするにはちょっと勇気がいるかもだけど、やっぱお土産ってその土地の雰囲気を持ってるものじゃないとだよね~」

「そうだね」

ミハエルが笑顔で返す。

そうしてショッピングを楽しみ、食事も楽しんだ。

安和はとても満足そうだ。

その後、街を二人で歩く。人間達は気付かないけれど、吸血鬼達はこうして人間社会に紛れ込んでいる。悪意で何かをしようとすればそれこそやりたい放題だ。

けれど彼らはもうそういうのは放棄した。メリットよりもデメリットの方が大きいから。

人間なら危険な路地裏でも、気配を消して歩けばトラブルに巻き込まれることもない。

でもその時、

「パパ…あの子……」

安和が不意にミハエルに声を掛けた。その理由をミハエルも察する。

正直、不潔で何とも言えない臭いが立ち込めている路地裏の隅に、何かが落ちていた。日が落ちて町の灯も届いてない路地だったから人間の目には分からなかっただろうけど、吸血鬼であるミハエルとダンピールである安和の目には昼間と変わらずに見えている。

人間だった。それも、子供だ。安和よりは大きいが、ミハエルよりは小さい子供だった。

それが路地裏の隅に横たわっていたのだ。生きているのは呼吸と心音で分かるけど、その体にはハエがたかってる。

ストリートチルドレンだろうか。

「これも人間の社会の現実だね……」

「……」

ミハエルの言葉に、安和は言葉もなく俯いた。

するとミハエルは携帯電話を取り出し、どこかに電話をかけ始める。

「うん、そうなんだ。一人。年齢は五歳から七歳くらい。性別は……たぶん男の子。お願いできるかな?」

そうしてやり取りをして電話を切り、安和に向き直る。

「すべてのこういう子を救うことはできないけど、出逢ってしまったからね」

穏やかに言うミハエルに、

「うん…!」

安和も頷いたのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

処理中です...