ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
50 / 697

感嘆

しおりを挟む
見た目こそ幼くても、安和アンナは立派に自立心を持った一個の人格だった。ミハエルとアオが彼女をそう受け止めてきたから。

けれどまだまだママに甘えたい気持ちもある。ミハエルとアオは、その気持ちとも向き合ってくれる。だから離れていても寂しくない。両親の自分に対する気持ちを疑う必要もないから。

そうして安和がアオや椿つばきと話をしている間、セルゲイと悠里ユーリはレンタカーを借りてジャカルタ郊外へとやってきていた。

この辺りまで来るとさすがに緑も多い。代わりに街灯も人通りもなくなるので、当然、夜になれば日本よりは危険も増える。

とは言え、仮にも二人は吸血鬼とダンピール。人間の強盗など子犬に絡まれるようなものでしかなく、何の心配もない。

ただ、確実に自分より弱い相手を痛めつけて憂さを晴らすような趣味も持ち合わせてはいないので、レンタカーは近くの支店に返し、そこから先は狙われないように気配を消して徒歩で移動するけれど。タクシーを使わないのは、ごくたまに強盗がタクシードライバーに成りすましているような事例があるからだ。

最近は比較的マシになってきているとは言われてもいるものの、それでも日本に比べれば危険もある。むしろ、昔に比べれば治安が悪くなったと言われつつも日本の治安の良さはもはや異次元のレベルであり、日本を基準に考えるのは適切じゃないだろう。

この辺りは、長年にわたって世界を見てきたセルゲイにとって慣れたものと言えた。

そうして気配を消したまま道を外れ、藪へと入っていく。この辺りだと対策も取られているのでそれほど多くはないにしても、やはり野犬も出る。

さりとて、野犬の方がむしろ力の差を察して早々に逃げるのが普通なので、人間よりは逆に安全かもしれない。

と、藪に入って早々に、

「ユーリ、オオルリオビアゲハだ。寝ているね」

月明かり以外にまったく光のないそこでも、セルゲイはたやすく木の葉の影で寝ている青い模様が美しい蝶を見付け、悠里に示した。

さすがにまだ未熟な悠里はすぐには見付けられなかったけれど、それでもセルゲイに示してもらった辺りをよく見て、

「あ……!」

と小さく声を上げた。僅かに月の光に照らされたそれは、息を呑むほど美しかった。

「すごい……」

人間の耳には聞こえないような微かな呟きも、悠里の感嘆を表すには十分かもしれない。

悠里は、生き物の持つ美しさや力強さに惹かれていた。奇跡のようなバランスで成り立っているそれがたまらなく好きだった。

もっとも、蝶の美しさに見惚れている悠里自身も、月の光に照らされて、恐ろしいほどに美しかったのだけれど。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

江戸時代改装計画 

華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

処理中です...