48 / 697
向き合う手間を
しおりを挟む
「満足していただけましたか? 姫」
超特大パフェを食べ切ってレストランを出たセルゲイは、その腕に抱いた安和に穏やかに問い掛けていた。
すると安和は、
「満足はしてないけど、まあ、今回は許したげる」
少し不満げではあったものの、セルゲイが昆虫の生態調査に行くことを認めてくれた。
安和も分かってはいた。それがセルゲイの仕事である以上、自分の我儘で邪魔をしてはいけないことは。けれど、だからといってすぐに納得できるほど単純ではないのは、人間もダンピールも変わらない。
セルゲイが、ミハエルが、アオが、そういう部分を疎かにしないからこそ、ダンピールである安和が精神的に穏やかでいられるのだと言える。
超特大パフェを食べ尽くした後も、セルゲイと安和はホテル内のショップを巡り、一緒の時間を過ごした。
そこでもセルゲイは、安和の言葉に耳を傾け、決して蔑ろにしなかった。その一方で、彼女が望んでもいないのにあれこれと買い与えるような形でご機嫌をとることもしなかった。
安易にモノで機嫌を取ろうとするのは、それはむしろ相手を軽んじていると考えることもできるだろう。
『取り敢えずモノで釣っておけばこっちの言いなりになってくれるだろう、思い通りに動いてくれるだろう』
という<下心>がそこにはあるだろうから。
それが分かっているからミハエルもアオも物で釣るのではなく、子供達本人としっかり向き合う手間を惜しまなかった。手間を惜しまなかった結果が、今の安和であり悠里だった。
そしてセルゲイも、同じことができる。ゆえに、彼女はセルゲイを愛していた。自分を自分として見てくれるからこそ。
「あ、これ、可愛い♡」
イルカをモチーフにしたブローチを見付けた安和が声を上げる。
「これ、ママにプレゼントしたら喜んでくれるかな!?」
「かもしれないね」
自分が欲しがるのではなくまず母親へのプレゼントにどうかと訊いてくる彼女に、セルゲイもあたたかいものを感じていた。
彼女が成長すればまた外に誰かその心を射止める者が現れるかもしれないので今はただそれを見守っているだけなものの、しかし同時にこうやって安和と一緒にいるとセルゲイ自身も心癒されるのは確かだった。
他人からはただ我儘なだけに見えるかもしれない彼女も、しかしその本質は他者を労われる本質もの持ち主であることは分かっている。
セルゲイは思う。
『僕達にできることは、彼女の心が大きく育とうとしているその芽を摘まないことだ。僕達がそれを忘れなければ、彼女はきっと強く生きていってくれるだろう……』
と。
超特大パフェを食べ切ってレストランを出たセルゲイは、その腕に抱いた安和に穏やかに問い掛けていた。
すると安和は、
「満足はしてないけど、まあ、今回は許したげる」
少し不満げではあったものの、セルゲイが昆虫の生態調査に行くことを認めてくれた。
安和も分かってはいた。それがセルゲイの仕事である以上、自分の我儘で邪魔をしてはいけないことは。けれど、だからといってすぐに納得できるほど単純ではないのは、人間もダンピールも変わらない。
セルゲイが、ミハエルが、アオが、そういう部分を疎かにしないからこそ、ダンピールである安和が精神的に穏やかでいられるのだと言える。
超特大パフェを食べ尽くした後も、セルゲイと安和はホテル内のショップを巡り、一緒の時間を過ごした。
そこでもセルゲイは、安和の言葉に耳を傾け、決して蔑ろにしなかった。その一方で、彼女が望んでもいないのにあれこれと買い与えるような形でご機嫌をとることもしなかった。
安易にモノで機嫌を取ろうとするのは、それはむしろ相手を軽んじていると考えることもできるだろう。
『取り敢えずモノで釣っておけばこっちの言いなりになってくれるだろう、思い通りに動いてくれるだろう』
という<下心>がそこにはあるだろうから。
それが分かっているからミハエルもアオも物で釣るのではなく、子供達本人としっかり向き合う手間を惜しまなかった。手間を惜しまなかった結果が、今の安和であり悠里だった。
そしてセルゲイも、同じことができる。ゆえに、彼女はセルゲイを愛していた。自分を自分として見てくれるからこそ。
「あ、これ、可愛い♡」
イルカをモチーフにしたブローチを見付けた安和が声を上げる。
「これ、ママにプレゼントしたら喜んでくれるかな!?」
「かもしれないね」
自分が欲しがるのではなくまず母親へのプレゼントにどうかと訊いてくる彼女に、セルゲイもあたたかいものを感じていた。
彼女が成長すればまた外に誰かその心を射止める者が現れるかもしれないので今はただそれを見守っているだけなものの、しかし同時にこうやって安和と一緒にいるとセルゲイ自身も心癒されるのは確かだった。
他人からはただ我儘なだけに見えるかもしれない彼女も、しかしその本質は他者を労われる本質もの持ち主であることは分かっている。
セルゲイは思う。
『僕達にできることは、彼女の心が大きく育とうとしているその芽を摘まないことだ。僕達がそれを忘れなければ、彼女はきっと強く生きていってくれるだろう……』
と。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
見知らぬ男に監禁されています
月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。
――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。
メリバ風味のバッドエンドです。
2023.3.31 ifストーリー追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる