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向き合う手間を

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「満足していただけましたか? 姫」

超特大パフェを食べ切ってレストランを出たセルゲイは、その腕に抱いた安和アンナに穏やかに問い掛けていた。

すると安和は、

「満足はしてないけど、まあ、今回は許したげる」

少し不満げではあったものの、セルゲイが昆虫の生態調査に行くことを認めてくれた。

安和も分かってはいた。それがセルゲイの仕事である以上、自分の我儘で邪魔をしてはいけないことは。けれど、だからといってすぐに納得できるほど単純ではないのは、人間もダンピールも変わらない。

セルゲイが、ミハエルが、アオが、そういう部分を疎かにしないからこそ、ダンピールである安和が精神的に穏やかでいられるのだと言える。



超特大パフェを食べ尽くした後も、セルゲイと安和アンナはホテル内のショップを巡り、一緒の時間を過ごした。

そこでもセルゲイは、安和の言葉に耳を傾け、決して蔑ろにしなかった。その一方で、彼女が望んでもいないのにあれこれと買い与えるような形でご機嫌をとることもしなかった。

安易にモノで機嫌を取ろうとするのは、それはむしろ相手を軽んじていると考えることもできるだろう。

『取り敢えずモノで釣っておけばこっちの言いなりになってくれるだろう、思い通りに動いてくれるだろう』

という<下心>がそこにはあるだろうから。

それが分かっているからミハエルもアオも物で釣るのではなく、子供達本人としっかり向き合う手間を惜しまなかった。手間を惜しまなかった結果が、今の安和であり悠里ユーリだった。

そしてセルゲイも、同じことができる。ゆえに、彼女はセルゲイを愛していた。自分を自分として見てくれるからこそ。

「あ、これ、可愛い♡」

イルカをモチーフにしたブローチを見付けた安和が声を上げる。

「これ、ママにプレゼントしたら喜んでくれるかな!?」

「かもしれないね」

自分が欲しがるのではなくまず母親へのプレゼントにどうかと訊いてくる彼女に、セルゲイもあたたかいものを感じていた。

彼女が成長すればまた外に誰かその心を射止める者が現れるかもしれないので今はただそれを見守っているだけなものの、しかし同時にこうやって安和と一緒にいるとセルゲイ自身も心癒されるのは確かだった。

他人からはただ我儘なだけに見えるかもしれない彼女も、しかしその本質は他者を労われる本質もの持ち主であることは分かっている。

セルゲイは思う。

『僕達にできることは、彼女の心が大きく育とうとしているその芽を摘まないことだ。僕達がそれを忘れなければ、彼女はきっと強く生きていってくれるだろう……』

と。

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