ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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受け止める覚悟を

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さらに時間が過ぎ、そしていよいよ、出産が迫っていた。

ダンピールを宿しているがゆえに普通の病院にはかかれず、自宅で出産することになり、セルゲイとミハエルで対処する。

医療面で最低限必要な準備はセルゲイが整えてくれた。

その上で、万が一、命に関わるような事態が生じた時には、ミハエルが眷属化するギリギリまで吸血を行うという覚悟を持って。

もしそれで眷属になってしまったとしても、アオ自身が吸血鬼化したとしても、それさえ受け止める覚悟を、全員が持って。

「もういやだ~! やめたい~!」

そう泣き言を漏らしてるアオも、敢えてそれを口にすることでどうあっても逃れられない現実を再認識して腹を括ろうとしているのだ。

けれど……

「アオ……」

今はただ見守るしかできないミハエルが、彼女の手を握る。

「ミハエル、ミハエル、ミハエル~!」

激しい陣痛と不安とで正気を失いかけているアオがボロボロと涙を流しながら何度も彼の名を呼んだ。

普段、どんなに高邁な理念を唱えようとも、人間は大きな苦痛に曝されると容易く心が折れてしまう一面もある。この時のアオもそうだった。

いくら覚悟を持っても腹を括っても、それはあくまで理性が保てている範囲内でのことでしかない。小賢しい理性など、命の危険の実感の前には風に吹かれる塵に同じ。

『出産は命懸け』

という実感を突きつけられたアオは、ほとんど赤ん坊のようなものだった。

『母は強し』

など、無責任な第三者の戯言でしかない。創作物の作劇上の演出でしかない。

ここまで来たらもうどうすることもできないからやるしかないだけだ。ただ時間だけが過ぎていく。

「まだだ、まだいきまない…!」

セルゲイがアオに指示を与える。が、『いきむな』と言われても体が勝手にいきんでしまう。

とは言えセルゲイもその程度のことは承知済み。本当に全力を出さなければいけない時に備えてセーブさせてるだけだ。

「あ~! うああ~!」

もう意味のある言葉を出すこともできず。アオはただ呻く。物心ついてからの、いや、物心つく以前の、普段は決して思い出すことのないような記憶までが、頭の中をデタラメに駆け回る。

特に、両親の自分への仕打ちが思い出されてしまう。

「ううおが~っ! くそったれくそったれくそったれがぁああ~!! ふざけるなクソが~っ!!」

アオ自身、自分が何を言っているのか分かっていない。ただただ両親への怒りが、憎しみが、反発が、彼女を支えていた。

自身のなかをなにかがぐりぐりと回転しながら降りていくのを感じる。

しかしもはやそれが現実なのかどうかすら分からない。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! 殺してやるうぅ~! がああああ~っ!!」

でも、その時、

「アオ……!」

ほぼほぼ正気が失われていた彼女の意識に差し込む<光>。

「ミハ…エル……?」

一瞬、自我を取り戻した彼女に、

「今だ! いきんで!! 思いっきり…っ!!」

セルゲイの指示が飛んだのだった。

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