18 / 697
受け止める覚悟を
しおりを挟む
さらに時間が過ぎ、そしていよいよ、出産が迫っていた。
ダンピールを宿しているがゆえに普通の病院にはかかれず、自宅で出産することになり、セルゲイとミハエルで対処する。
医療面で最低限必要な準備はセルゲイが整えてくれた。
その上で、万が一、命に関わるような事態が生じた時には、ミハエルが眷属化するギリギリまで吸血を行うという覚悟を持って。
もしそれで眷属になってしまったとしても、アオ自身が吸血鬼化したとしても、それさえ受け止める覚悟を、全員が持って。
「もういやだ~! やめたい~!」
そう泣き言を漏らしてるアオも、敢えてそれを口にすることでどうあっても逃れられない現実を再認識して腹を括ろうとしているのだ。
けれど……
「アオ……」
今はただ見守るしかできないミハエルが、彼女の手を握る。
「ミハエル、ミハエル、ミハエル~!」
激しい陣痛と不安とで正気を失いかけているアオがボロボロと涙を流しながら何度も彼の名を呼んだ。
普段、どんなに高邁な理念を唱えようとも、人間は大きな苦痛に曝されると容易く心が折れてしまう一面もある。この時のアオもそうだった。
いくら覚悟を持っても腹を括っても、それはあくまで理性が保てている範囲内でのことでしかない。小賢しい理性など、命の危険の実感の前には風に吹かれる塵に同じ。
『出産は命懸け』
という実感を突きつけられたアオは、ほとんど赤ん坊のようなものだった。
『母は強し』
など、無責任な第三者の戯言でしかない。創作物の作劇上の演出でしかない。
ここまで来たらもうどうすることもできないからやるしかないだけだ。ただ時間だけが過ぎていく。
「まだだ、まだいきまない…!」
セルゲイがアオに指示を与える。が、『いきむな』と言われても体が勝手にいきんでしまう。
とは言えセルゲイもその程度のことは承知済み。本当に全力を出さなければいけない時に備えてセーブさせてるだけだ。
「あ~! うああ~!」
もう意味のある言葉を出すこともできず。アオはただ呻く。物心ついてからの、いや、物心つく以前の、普段は決して思い出すことのないような記憶までが、頭の中をデタラメに駆け回る。
特に、両親の自分への仕打ちが思い出されてしまう。
「ううおが~っ! くそったれくそったれくそったれがぁああ~!! ふざけるなクソが~っ!!」
アオ自身、自分が何を言っているのか分かっていない。ただただ両親への怒りが、憎しみが、反発が、彼女を支えていた。
自身の胎をなにかがぐりぐりと回転しながら降りていくのを感じる。
しかしもはやそれが現実なのかどうかすら分からない。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! 殺してやるうぅ~! がああああ~っ!!」
でも、その時、
「アオ……!」
ほぼほぼ正気が失われていた彼女の意識に差し込む<光>。
「ミハ…エル……?」
一瞬、自我を取り戻した彼女に、
「今だ! いきんで!! 思いっきり…っ!!」
セルゲイの指示が飛んだのだった。
ダンピールを宿しているがゆえに普通の病院にはかかれず、自宅で出産することになり、セルゲイとミハエルで対処する。
医療面で最低限必要な準備はセルゲイが整えてくれた。
その上で、万が一、命に関わるような事態が生じた時には、ミハエルが眷属化するギリギリまで吸血を行うという覚悟を持って。
もしそれで眷属になってしまったとしても、アオ自身が吸血鬼化したとしても、それさえ受け止める覚悟を、全員が持って。
「もういやだ~! やめたい~!」
そう泣き言を漏らしてるアオも、敢えてそれを口にすることでどうあっても逃れられない現実を再認識して腹を括ろうとしているのだ。
けれど……
「アオ……」
今はただ見守るしかできないミハエルが、彼女の手を握る。
「ミハエル、ミハエル、ミハエル~!」
激しい陣痛と不安とで正気を失いかけているアオがボロボロと涙を流しながら何度も彼の名を呼んだ。
普段、どんなに高邁な理念を唱えようとも、人間は大きな苦痛に曝されると容易く心が折れてしまう一面もある。この時のアオもそうだった。
いくら覚悟を持っても腹を括っても、それはあくまで理性が保てている範囲内でのことでしかない。小賢しい理性など、命の危険の実感の前には風に吹かれる塵に同じ。
『出産は命懸け』
という実感を突きつけられたアオは、ほとんど赤ん坊のようなものだった。
『母は強し』
など、無責任な第三者の戯言でしかない。創作物の作劇上の演出でしかない。
ここまで来たらもうどうすることもできないからやるしかないだけだ。ただ時間だけが過ぎていく。
「まだだ、まだいきまない…!」
セルゲイがアオに指示を与える。が、『いきむな』と言われても体が勝手にいきんでしまう。
とは言えセルゲイもその程度のことは承知済み。本当に全力を出さなければいけない時に備えてセーブさせてるだけだ。
「あ~! うああ~!」
もう意味のある言葉を出すこともできず。アオはただ呻く。物心ついてからの、いや、物心つく以前の、普段は決して思い出すことのないような記憶までが、頭の中をデタラメに駆け回る。
特に、両親の自分への仕打ちが思い出されてしまう。
「ううおが~っ! くそったれくそったれくそったれがぁああ~!! ふざけるなクソが~っ!!」
アオ自身、自分が何を言っているのか分かっていない。ただただ両親への怒りが、憎しみが、反発が、彼女を支えていた。
自身の胎をなにかがぐりぐりと回転しながら降りていくのを感じる。
しかしもはやそれが現実なのかどうかすら分からない。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね! 殺してやるうぅ~! がああああ~っ!!」
でも、その時、
「アオ……!」
ほぼほぼ正気が失われていた彼女の意識に差し込む<光>。
「ミハ…エル……?」
一瞬、自我を取り戻した彼女に、
「今だ! いきんで!! 思いっきり…っ!!」
セルゲイの指示が飛んだのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。


今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる