上 下
11 / 697

ダンピール問題

しおりを挟む
エンディミオンは、今でも吸血鬼を激しく憎んでいる。

けれど、彼にとってそれはもう、自らの全存在を賭けてでも貫かねばいけないものではなくなっていた。

それよりもっとずっと大切なものが彼にはあり、その<大切なもの>を守るためには、自身の憎悪に身を委ねていてはいけないのだと彼は知った。

ただ憎悪に振り回されているだけの弱い自分でいては、大切なものを守れないことを彼は知った。

だから今の幸せを守れている。

彼自身は、かつての自らの行いにより地獄に落ちるかもしれない。

いや、もしかすると、今がまさにその<地獄>の可能性もある。

本来の彼にとっては己の存在の全てであった、

<吸血鬼に対する憎悪>

を全否定し、押し込めておかなければいけないのだから。

それが彼にとってはどれほどのことか他人が理解する時は、未来永劫こないだろう。

彼がどれほどの善行を積んだとて、やったことは消えないし、許されることもない。

決して解消されることのない、無限の責め苦。

けれど、エンディミオンがそれを成しているという事実こそが、全てを物語っている。

『ダンピールの吸血鬼に対する憎悪は、攻撃性は、周囲の理解と協力によって制御可能である』

という事実を。

もちろん容易なことではない。大変なリスクを伴うことでもある。

けれど、リスクというものはそもそもゼロになることはない。ならば、あらかじめ分かっている危険の方が、むしろ対処もしやすいというものではないだろうか?

とは言え、これから生まれてくるダンピールについてその懸念は杞憂だと捉えられる根拠の方がすでに多い。

この事実を否定するのは、

『原子力発電所は必ず事故を起こし地球を滅ぼす』

と主張するのに等しい蛮行だろう。

確かにこれまでにも何度か大きな事故はあったが、それらはいずれも、

『科学的な根拠を無視したルーズな管理がもたらした人災』

であったり、

『未曾有の自然災害がもたらしたもの』

であったりだし、何より、現にそれらの事故を経ても世界は滅んでなどいない。

実際に大きな被害はあったとしても、

『大きな被害が出るから駄目だ!』

と言うのなら、自動車事故で、毎年、どれだけの命が失われているというのか? 

その事実がありながら、

『自動車がなければ生活ができない』

等の理由で、自動車の存在を容認しているではないか。

しかし同時に、現実問題として、原子力発電所においては<高レベル廃棄物>等の難問があることも事実ゆえ、いずれ代替エネルギーに置き換わっていくのも当然の流れかもしれない。

が、実際に代替エネルギーとして使えるものが開発されるまでにはまだまだ時間が必要だろう。リスクを抱えながらも現に使えるものを使っていくというのは、現実的な対処のはずだ。

<ダンピール問題>

も、結局は同じこと。

現に存在するダンピールという存在を正しく理解し、共存を目指すのは、リスクも伴いながらも必要なことなのである。

吸血鬼と人間が共存するためには、<ダンピール問題>は避けて通れないのだから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

海の見えるこの町で一杯の幸せを

鈴月詩希
キャラ文芸
主人公、春日井日向は大学を卒業した二十二歳の春、トランクひとつだけを持って、地元を飛び出した。 「そうだ、海の見える町に行こう」 漠然と海の見える、落ち着いた町での生活を求めて、その場所にたどり着いた。 日向は、他の人とは違う眼を持っていた。 日向の眼には、人の『感情』が『色』として視えた。 そして、その眼が原因で、日向は幼い頃から、人との関係に悩み、心を擦り減らしてきていた。 そんな彼女が、海の見える町で仕事を探していると、この町でまことしやかに噂される、神様の話を聞く。 曰く、この町には猫神様がいて、町の人達に幸せをくれる。 曰く、その猫神様が運営する、喫茶店がある。 曰く、その喫茶店は、猫神様に認められた人間しか、店主になれない。 日向はその話を、おとぎ話のようだと思いながら、聞いていると、その喫茶店は実在して、現在は店主『マスター』が不在だという。 「仕事がないなら、猫神様を探しても良いかもね」 冗談半分で言われたその言葉を、頭の片隅に置いて、町を散策していると、一匹の黒猫に出会う。 その黒猫は自らを猫神だと名乗り、猫神達の主を助けて欲しいと持ちかける。 日向の眼の力が役にたつから。と言われた日向は、初めてこの眼が役に立つのなら。とその話を受け入れて、『マスター』になった。 『マスター』は心が弱っている人の、幸せだった頃の記憶を汲み取り、その記憶から、一杯のお茶を淹れる。 そのお茶を飲んだ人は、幸せだった頃の気持ちを取り戻し、辛い現実を乗り切る元気を貰う。 「幸せの一杯、お届けします」 この物語で、一人でも暖かい心になってくださる方が居ることを願って。

天界アイドル~ギリシャ神話の美少年達が天界でアイドルになったら~

B-pro@神話創作してます
キャラ文芸
全話挿絵付き!ギリシャ神話モチーフのSFファンタジー・青春ブロマンス(BL要素あり)小説です。 現代から約1万3千年前、古代アトランティス大陸は水没した。 古代アトランティス時代に人類を助けていた宇宙の地球外生命体「神」であるヒュアキントスとアドニスは、1万3千年の時を経て宇宙(天界)の惑星シリウスで目を覚ますが、彼らは神格を失っていた。 そんな彼らが神格を取り戻す条件とは、他の美少年達ガニュメデスとナルキッソスとの4人グループで、天界に地球由来のアイドル文化を誕生させることだったーー⁉ 美少年同士の絆や友情、ブロマンス、また男神との同性愛など交えながら、少年達が神として成長してく姿を描いてます。

超絶! 悶絶! 料理バトル!

相田 彩太
キャラ文芸
 これは廃部を賭けて大会に挑む高校生たちの物語。  挑むは★超絶! 悶絶! 料理バトル!★  そのルールは単純にて深淵。  対戦者は互いに「料理」「食材」「テーマ」の3つからひとつずつ選び、お題を決める。  そして、その2つのお題を満たす料理を作って勝負するのだ!  例えば「料理:パスタ」と「食材:トマト」。  まともな勝負だ。  例えば「料理:Tボーンステーキ」と「食材:イカ」。  骨をどうすればいいんだ……  例えば「料理:満漢全席」と「テーマ:おふくろの味」  どんな特級厨師だよ母。  知力と体力と料理力を駆使して競う、エンターテイメント料理ショー!  特売大好き貧乏学生と食品大会社令嬢、小料理屋の看板娘が今、ここに挑む!  敵はひとクセもふたクセもある奇怪な料理人(キャラクター)たち。  この対戦相手を前に彼らは勝ち抜ける事が出来るのか!?  料理バトルものです。  現代風に言えば『食〇のソーマ』のような作品です。  実態は古い『一本包丁満〇郎』かもしれません。  まだまだレベル的には足りませんが……  エロ系ではないですが、それを連想させる表現があるのでR15です。  パロディ成分多めです。  本作は小説家になろうにも投稿しています。

裏社会の何でも屋『友幸商事』に御用命を

水ノ灯(ともしび)
キャラ文芸
とある街にある裏社会の何でも屋『友幸商事』 暗殺から組織の壊滅まで、あなたのご依頼叶えます。 リーダーというよりオカン気質の“幸介” まったり口調で落ち着いた“友弥” やかましさNO.1でも仕事は確実な“ヨウ” マイペースな遊び人の問題児“涼” 笑いあり、熱い絆あり、時に喧嘩ありの賑やか四人組。 さらに癖のある街の住人達も続々登場! 個性的な仲間と織り成す裏社会アクションエンターテイメント! 毎週 水 日の17:00更新 illustration:匡(たすく)さん Twitter:@sakuxptx0116

ホームレスの俺が神の主になりました。

もじねこ。
キャラ文芸
 スポーツ推薦で強豪校に入学した一人の青年。  野球に明け暮れ甲子園を目指して青春の日々を過ごしていたはずが、煙草に、酒に、更には猥褻行為で高校中退!? その後は、友を失い、家族を失い、全てをなくして、あれよあれよと言う間にホームレス歴13年。 転落し続け、夢も希望もない一人のおっさんが、夢と希望に溢れ過ぎる神様と、手違いでご契約!?  最悪の印象から始まる二人の物語。  無愛想でコミュニケーション能力を微塵も感じないおっさんと、何事も体当たりで真っ直ぐな神様の生活が始まる。 「幸せ……? 幸せを願うなら死なせてくれよ。それが今の俺の一番の幸せだ」 「いやもうなんで、このおっさんこんな究極に病んでんの。出会って数分でこれは受け止めきれねぇよ」  人間を幸せにするために、人間界へ訪れた神様は、おっさんを幸せに出来るのか。 そんな正反対の二人のドタバタハートフルコメディ。

龍の契り〜身代わりのとりかえ神和ぎ〜

緋村燐
キャラ文芸
 はるか昔、この日の本の国は国外からの脅威にさらされていた。  主に被害を受けるのは力なき人間たち。  哀れに思った神々が、強き者であるあやかしの五体の龍と契りを交わすよう五人の人間に告げた。  龍は神に連なるあやかし故に荒ぶる神の御霊をその身に宿す。  その御霊を契りを交わした人間が神和ぎとして鎮める事で、日の本の国に神の霊力が行き渡り結界の役割を持つだろう、と。  陽の者である男の覡ならば側にいることで、陰の者である女の巫なら肌を合わせることで御霊は鎮まるのだという。  それ故、契りを交わした人間は男なら側近として、女なら花嫁として龍に仕えるのだ。  その契りは百年、千年の時を越え現在に至る。  そして今日、金龍と契りを交わした人の一族・竜ヶ峰家から神和ぎが一人遣わされた。 ノベマ!様 小説家になろう様 エブリスタ様 にも掲載しています。

何が何でも爆乳ハーレムを作りたい!

山溶水
キャラ文芸
「はじめまして! 乙葉伊月です! 夢は私のための爆乳ハーレムを作ることです! そのためにみなさんと仲良くなりたいと思っています! よろしくお願いします!」 女性を拐う宇宙人「パイリアン」の出現 パイリアンの出現と共に女性に身についた力「乳力」 おっぱい大好き女子高生、乙葉伊月(おとはいづき)は乳力を駆使して夢を叶えるために戦い続ける!

男女比崩壊世界で逆ハーレムを

クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。 国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。 女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。 地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。 線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。 しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・ 更新再開。頑張って更新します。

処理中です...