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あたたかい家庭の光景
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『はぁ…またやっちまったな~……』
担当編集<月城さくら>が帰り、原稿をボツにされたことをミハエルに慰めてもらってから、蒼井霧雨は、一人、仕事部屋にこもって凹んでいた。
本当は子供達に言い争っているところを見せたくないのに、ついつい熱くなってしまう自分が情けない。それは仕事に対する真剣さや情熱の表れではあるものの、やはり親が強い言葉を使っているところは教育上よくないことは承知しているのだ。
なにしろ親がそんな風にしていると、『他人に対して大きな声で罵ってもいい』と子供に思われてしまう可能性が高いのだから。
でも、子供達はちゃんと分かってくれていた。蒼井霧雨と月城さくらのそのやり取りは、信頼しあっているからこそのものだということを。
それはミハエルが、
「大丈夫。ママとさくらはケンカしてるんじゃないよ。ほら、アニメとかでホントは仲良しな人達がケンカしてるみたいに言い合ったりすることあるよね。あれだよ」
そう言って丁寧に子供達に諭してくれているからというのもある。
しかも蒼井霧雨と月城さくら自身、普段は実際に仲のいい様子を子供達の前で見せてもいるし。そして、私人としての月城さくらは、子供達にとっても<もう一人のお母さん>的な存在でもあった。
何しろ蒼井家と月城家そのものが家族同然の間柄なのである。
そんなこんなで、
「ママ~、ばんごはんできたよ~」
一人で凹んでいた蒼井霧雨に、末っ子の椿がそう声を掛けてきた。
「あ、ありがとう」
言いながら出てきた彼女は、にこやかに自分を見上げる娘に向かって、
「ごめんね~、ママ、怖かったよね」
と申し訳なさそうに謝った。すると椿は、
「だいじょうぶだよ。分かってる。ママ。わたし、ママのこともさくらママのことも大好きだよ」
笑顔でそんな風に返してくれる。
「あう~、ありがとう椿~。大好きだよ~♡」
僅か十歳の娘の気遣いに、蒼井霧雨は、アオは、目を潤ませながら抱き締めずにはいられなかった。
母親のそんな姿も、椿にとっては当たり前のこと。情けないとも思わないし、ウザいとも思わなかった。
だって、とても愛されている実感があるから。
末っ子の椿でさえ分かっているくらいだから、悠里と安和はそれこそ分かってくれている。
そして椿に連れられたアオがダイニングで席に着くと、家族五人での夕食が始まった。
「いただきます!」
皆で挨拶をして、カレーを食べる。
「ん、美味しい♡」
ミハエルと子供達が作ったシーフードカレーに自然と笑顔になってしまう。
「毎日こんな美味しい料理食べられて、私はホントに幸せ者だよ~♡」
言いながらアオは目が潤んでいた。
するとミハエルも、
「僕もアオと一緒に暮らせて幸せだよ♡」
穏やかに微笑みながら返した。
「はいはい、熱い熱い」
「子供が見てたってお構いなしだもんね~」
とてもあたたかい家庭の光景がそこにはあったのだった。
担当編集<月城さくら>が帰り、原稿をボツにされたことをミハエルに慰めてもらってから、蒼井霧雨は、一人、仕事部屋にこもって凹んでいた。
本当は子供達に言い争っているところを見せたくないのに、ついつい熱くなってしまう自分が情けない。それは仕事に対する真剣さや情熱の表れではあるものの、やはり親が強い言葉を使っているところは教育上よくないことは承知しているのだ。
なにしろ親がそんな風にしていると、『他人に対して大きな声で罵ってもいい』と子供に思われてしまう可能性が高いのだから。
でも、子供達はちゃんと分かってくれていた。蒼井霧雨と月城さくらのそのやり取りは、信頼しあっているからこそのものだということを。
それはミハエルが、
「大丈夫。ママとさくらはケンカしてるんじゃないよ。ほら、アニメとかでホントは仲良しな人達がケンカしてるみたいに言い合ったりすることあるよね。あれだよ」
そう言って丁寧に子供達に諭してくれているからというのもある。
しかも蒼井霧雨と月城さくら自身、普段は実際に仲のいい様子を子供達の前で見せてもいるし。そして、私人としての月城さくらは、子供達にとっても<もう一人のお母さん>的な存在でもあった。
何しろ蒼井家と月城家そのものが家族同然の間柄なのである。
そんなこんなで、
「ママ~、ばんごはんできたよ~」
一人で凹んでいた蒼井霧雨に、末っ子の椿がそう声を掛けてきた。
「あ、ありがとう」
言いながら出てきた彼女は、にこやかに自分を見上げる娘に向かって、
「ごめんね~、ママ、怖かったよね」
と申し訳なさそうに謝った。すると椿は、
「だいじょうぶだよ。分かってる。ママ。わたし、ママのこともさくらママのことも大好きだよ」
笑顔でそんな風に返してくれる。
「あう~、ありがとう椿~。大好きだよ~♡」
僅か十歳の娘の気遣いに、蒼井霧雨は、アオは、目を潤ませながら抱き締めずにはいられなかった。
母親のそんな姿も、椿にとっては当たり前のこと。情けないとも思わないし、ウザいとも思わなかった。
だって、とても愛されている実感があるから。
末っ子の椿でさえ分かっているくらいだから、悠里と安和はそれこそ分かってくれている。
そして椿に連れられたアオがダイニングで席に着くと、家族五人での夕食が始まった。
「いただきます!」
皆で挨拶をして、カレーを食べる。
「ん、美味しい♡」
ミハエルと子供達が作ったシーフードカレーに自然と笑顔になってしまう。
「毎日こんな美味しい料理食べられて、私はホントに幸せ者だよ~♡」
言いながらアオは目が潤んでいた。
するとミハエルも、
「僕もアオと一緒に暮らせて幸せだよ♡」
穏やかに微笑みながら返した。
「はいはい、熱い熱い」
「子供が見てたってお構いなしだもんね~」
とてもあたたかい家庭の光景がそこにはあったのだった。
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