この世界のアラクネは密林の覇者。ロボを従え覇道を生きる

道具

ヒト蛇ラミアは、蛮ばんを無視してバドにまず襲い掛かった。

けれど、蛮ばんの前でそれをするというのは、普通に考えれば自殺行為だろう。実際、バドが攻撃を躱そうと身を捻るとヒト蛇ラミアの意識がそちらに向いて、その隙を蛮ばんは見逃さなかった。

ヒト蛇ラミアの顔に容赦のない本体側の蹴りを叩き込んだのだ。ヒト蛇ラミアも蹴りが当たる直前に躱そうとして多少は威力も削いだものの、

ゴシャッッ！！

という音と共にヒト蛇ラミアの顔が歪んだ。顎が完全に砕かれたようだ。

恐ろしい表情をしていたことで本来の美しい造形はそもそも台無しになっていた上に、これでさらに痛ましい顔になった。閉じなくなった口からはダラダラと粘液が滴るが、それが透明な血液なのか涎なのかは区別がつかない。

それをもたらした蛮ばんには尻尾による攻撃がお見舞いされた。

すると、蛮ばんの手（触角）にはいつの間にか太い木の枝が。それで尻尾の攻撃を掃ってみせた。枝は折れたが、蛮ばんは改めて別の枝をへし折ってそれを手にした。明らかに＜道具＞として使っている。

まさか、ヒト蜘蛛アラクネが道具を使うとは……！

ヒト蛇ラミアの危険さを本能的に察して、対策したのだろうか？

それは分からないが、いずれにせよこれは驚きの事実だった。そして、蛮ばんがさらに勝機を高めた可能性はある。

とは言え、ヒト蛇ラミアの攻撃性はなおも衰えない。これほどのダメージを負いながらまったく凶暴さが薄まらないのだ。自身の体のことさえそもそも頭にないのかもしれない。ただただ対象を破壊することだけしか考えていないということか。

やはり生物としては有り得ない存在ということだろう。

だからダメージを受けながらも戦闘力そのものは大きく下がっていないようだ。それにゆえに、バドはヒト蛇ラミアの＜習性＞を活かした。自身が視界に入ると必ず向かってくることを活かし、蛮ばんの存在を意識から外させるために動いた。それを蛮ばんが利用する。

実に息の合った連係プレイだった。

もっとも、それがなければ危険だった。いや、それがあるからこそかろうじて何とかなっていたというべきかもしれない。ヒト蛇ラミアの攻撃は先ほどの若いヒト蜘蛛アラクネを惨殺してみせた時と大きく変わっておらず、真っ向戦えば同じ結果になっていた可能性は高い。

事実、

「ッッ！？」

バドに掴みかかろうとしつつ蛮ばんに再び尻尾で攻撃、彼が枝でそれを掃おうとした際に尻尾の先がさらに枝を回り込んで蛮ばんの頬を切り裂き、その上で枝を手にした手（触角）にも叩き付けられた。

パギッッ！！

小枝が折れるような、しかし小枝のそれとは少し違う音。

枝を手にした蛮ばんの右手（触角）の指の部分、小指と薬指にあたる部分が、宙を舞っていたのだった。