上 下
88 / 97

攻撃対象

しおりを挟む
こうして若いヒト蜘蛛アラクネを惨殺したヒト蛇ラミアだったが、今度は食べようとしなかった。食べるには大きすぎたのか、それとも消化器官の一部が破れて食べたものが体内に漏れ出していることが影響しているのか、それは分からなかったものの、とにかく酷い有り様となった若いヒト蜘蛛アラクネをそのままにして、さらに移動する。

途中で遭遇した鳥や小動物を改めて殺害しながらも、やはり食べようとはしなかった。その様子を見る限り、破壊衝動攻撃衝動そのものがこのヒト蛇ラミアの在り方であって、<食欲>や<生存本能>は行動原理には大きく影響しないという可能性が高い。

そして遂に、出遭ってしまった。

「グルルルルルルッッ!!」

恐ろしい形相で殺気を漲らせて、自身の縄張りに土足で踏み入った不埒な輩に激しい怒りを見せる<彼>に。

ばんに。

しかも、その前にはバドの姿もある。例の<電磁パルス攻撃>を受ければあの三機のドーベルマンMPMらと同じ運命を辿る可能性は高いものの、どうやら逃げるわけにはいかなかったようだ。

バドにとってばんは重要な観察対象であり、かつ、ヒト蛇ラミアの存在は本来のこの密林に存在する外敵ではなかったからだろう。元々存在する外敵が相手ならあくまで自然な成り行きに過ぎないが、このヒト蛇ラミアはそうではなかった。

<埒外>の存在なのだ。だから敢えて加勢する。

ばんも、勝手にさせるつもりのようだ。

それはまさに、

<自身の国に侵攻してきた強大な敵を迎え撃つ覇王とその従者>

といった風情だった。

ヒト蛇ラミアも牙を剥き、これまでと同じくただ蹂躙するつもりのようだ。特に、バドに対しては激しい感情を向けているようにも見える。

すると、

「ガアアッッ!!」

ヒト蛇ラミアは返り血で何とも言えない色になった体を奔らせ、ばんではなくバドに向かっていった。普通に考えれば明らかにばんの方が先に対処するべき強敵に見えるだろうに、ばんに比べれば少なくとも見た目は取るに足らない存在でしかなさそうなバドに襲い掛かったのである。

確かに、バドはばんの攻撃を凌ぎ切るだけの能力は持っているものの、ドーベルマンMPM三体と戦ったことでその力は承知しているであろうものの、それにしたってこの状況で優先すべき相手だろうか?

例の<電磁パルス攻撃>を使えば確実に勝てる相手のはずなのだが。

しかし、ヒト蛇ラミアは<電磁パルス攻撃>は使わなかった。もしかすると『使えなかった』のかもしれない。ここまでに受けたダメージで、特に消化器官が破れ内容物が体内に漏れ出るほどのダメージを負ったことで、電磁パルスを発生させるほどの電磁バーストを起こすことができなくなっていたのかもしれない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

交換日記

奈落
SF
「交換日記」 手渡した時点で僕は「君」になり、君は「僕」になる…

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...