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勝てるはずもない相手とは戦わない

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このようにしてパルディアの母親が我が子を逃がしていたその時、密林の上を滑空している者の姿があった。アクシーズだ。滑空とはいえ空にも逃げられるアクシーズは、異変を察し、早々に逃げ去っていた。しかもアクシーズは、基本的に河を恐れない。必要とあれば河向こうにだって逃げる。

それもあってか、アクシーズにも犠牲は出なかったようだ。

『勝てるはずもない相手とは戦わない』

これも立派な生存戦略の一つであることが分かる。もっとも、それをするためには、相手の力量を見極める必要があるのだろうが。

けれど、中にはそれができない者も稀にいる。自分の縄張りに侵入してきた得体の知れない獣を相手に、

「ガアッツッ!!」

と牙を剥いたものがいた。ヒト蜘蛛アラクネだった。<人間のようにも見える部分>がまだ少年のようにも見える若々しい個体だった。雄のようだ。

そのヒト蜘蛛アラクネは、確かに若く強かった。そこの縄張りを持っていた老いた個体を退けて縄張りを奪い取ってみせた、まさに、

<新進気鋭の若者>

といった存在だっただろう。しかし、だからこそ自身の強さに溺れていたのかもしれない。ヒト蛇ラミアを迎え撃とうとしてしまったのだ。

<歴戦の勇士>

とも言えるような個体でさえ撤退することを選ばせる相手に、無謀にも挑もうというのである。

「グアッッ!!」

「ゴアアーッッ!!」

自身の縄張りを荒らす得体の知れない怪物をヒト蜘蛛アラクネは威嚇し、自身の前に立ちはだかる邪魔者にヒト蛇ラミアは激高した。

ヒト蜘蛛アラクネvsヒト蛇ラミア、第二戦。

と言ったところだろうか。

さりとてこの若いヒト蜘蛛アラクネに勝ち目があるとは到底思えなかっただろう。先の<老獪なヒト蜘蛛アラクネ>との戦いの様子を見てからでは。

なのに……

なのに、その若いヒト蜘蛛アラクネは、自身に猛然と飛びかかってきたヒト蛇ラミアをひらりと躱し、同時に片側三本の脚ですさまじい蹴りを叩き込んだのである。

一本だけでもヒト蛇ラミアを怯ませることさえあるそれを、三本同時にだ。

なんという格闘センス。身体能力。バランス感覚。

「ゴハアッッ!?」

さすがのヒト蛇ラミアでさえ、それまで出さなかった声を上げて木の幹に叩き付けられた。しかも若いヒト蜘蛛アラクネはその機会を逃さず、追撃を行う。太い木の幹に叩き付けられたヒト蛇ラミアにさらに三本の脚での蹴りを撃ち込んだのだ。

すると、太い木が幹の途中から折れ、ヒト蛇ラミアごと地面に落ちた。

もしかするとここまでの連戦でさらに疲労が溜まっていたのかもしれないが、それにしても、である。

そしてヒト蛇ラミアの体をよく見ると、それまで一本の紐のようになっていたはずの<食べたもの>の一部が、歪に体内に広がっているのが確認された。

<消化器官>の一部が、衝撃で裂けてしまったようだ。

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