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当たり前の光景

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こうしてアクシーズが命を落とした一方、アベルは自身の生を謳歌していた。ぴょんと枝から枝へと飛び移りつつ、トカゲに似た小動物を捕らえて食う。

幼児のようにも見える姿でそれだから、やはり人間にはショッキングにも思えるだろう。しかし、ヒト蜘蛛アラクネとしてはどこまでも<普通>なのだ。

すると今度は、樹上から糞を落とす。数分後、<ヤスデに似た虫>がどこからともなく現れて、アベルが落とした糞にたかり、貪り始める。

かと思うと、その<ヤスデに似た虫>を、<ネズミに似た小動物>が捕らえて食う。自然としては実に当たり前の光景。

そうしてその<ネズミに似た小動物>が次の獲物を求めて木に登り、上の方に昆虫を見付けてそれに近付くと、

「ピキッ!?」

悲鳴を上げて何かに突然攫われた。アクシーズだった。ばんに喰われたのとは別のアクシーズが、足で<ネズミに似た小動物>を捕らえ、鋭い爪を突き刺して殺し、器用にそれを足で口のところにまで持っていって躊躇なく食らった。

ばんに喰われたアクシーズは命を落としつつ、別のアクシーズはこうして命を繋ぐ。

アベルは、少し離れたところからアクシーズの姿を見ていた。いずれは彼も、アクシーズに狙われる側からアクシーズを狙う側になるだろう。このまま順調に育てばだが。

そんなアベルの姿を、やはりバドが連携しているドローンが捉えていた。ばんとの比較対象としてアベルも観察対象に正式に加えたようだ。

ただし、主たる観察対象はあくまでばんであり、アベルについては比較対象でしかないが。



なお、ヒト蜘蛛アラクネは、昼間を主な活動時間としているが、しかし同時に、

『寝られる時は寝るし、夜も常に寝ているわけではない』

という形で、昼間でも寝ていることも多い。この時も、ばんは、樹上で眠っていた。

ヒト蜘蛛アラクネは、人間のようにも見える部分がやはり弱点なので、眠る時には特に首を守るようにして両腕を首に巻きつけるようにし、体を丸めるようにして眠るものが多いようだ。

そんなばんの様子も、バドは記録していた。しかし時折、頭を上げて周囲の様子を窺う素振りも見せる。やはり人間のようには熟睡しない。短く浅い睡眠を、何度にも分けて取るという形か。

それに、完全に熟睡してしまっては、樹上から転落することもあるだろう。そういう意味でも迂闊に熟睡はできないということと思われる。

しかしその一方で、小鳥が本体にとまっても、特に気にしている様子もない。実は本体の一部には手が届かないので、そこに小鳥がとまったりする分には、気にする様子は見えなかったのだった。

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