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驚くには値しない

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こうして命の危機を脱したアベルだったが、その程度はむしろ普通のことなので、驚くには値しないだろう。

だからアベル自身も、さほど気にしている様子もなかった。枝に掴まって、ゆらりゆらりと遊んでいるかのように揺らめかせる。

一応、脊椎動物の特徴を持つヒト蜘蛛アラクネではあるものの、そのメンタリティはほぼ昆虫のそれであり、人間はおろかスズメほどの知能もないと見られていた。なので、<遊ぶ>という感覚も本来は持ち合わせていないと見られており、アベルのそれも、『遊んでいる』のか、それとも何か別の目的があってそうしているのかは、現時点では判然としなかった。

だが、人間の目にはやはり遊んでいるように見えてしまう。そんなアベルを、バドはただ観察していた。

なお、先ほどのアクシーズは、別のところで改めて獲物を捕らえることができたようだ。ネズミに似た小動物だった。が、樹上を主な生活圏にしているところを見ると、実はリスに近い生態を持つ動物のようである。

まあそれはさておき、これでこのアクシーズも生き延びることができるわけだ。

クモのようにも見えるヒト蜘蛛アラクネと違い、見た目だけなら可愛らしくもあるアクシーズではあるものの、やはり当然のこととして過酷な世界を生きている。

ネズミに似た小動物を捕らえて安堵してしまったのだろうか。自身の足下に迫る危険に気付くのに遅れてしまったようだ。

「!?」

だから、気付いた時には遅かった。かっしりと両足を掴まれて、掴まっていた枝から引きずり下ろされる。と同時に、左の翼に衝撃。バギッ!という音がその小さな体の中で響いた。翼を兼ねる腕の骨が折られたのだ。強烈な蹴りで。

「ギーッッ!?」

牙を剥きつつも悲鳴を上げたアクシーズの目が捉えたのは、木の幹に掴まったばんの姿だった。番が、人間のようにも見える部分の両手でアクシーズの両足を掴んで引きずり下ろし、同時に人間のようにも見える部分の脚でアクシーズの翼を蹴り、折ったのである。

こうなるともう、空を飛んで逃げることはできない。

「ギッ! ギギッ!! ギィーッッ!!」

少女のような顔を歪ませて歯を剥き出し吠えながら、アクシーズは必至で両足を動かした。鉤爪をガチガチを鳴らし、ばんの体を抉ろうとするものの、当然、ばんもそんなことを許すつもりもない。

それでも、アクシーズは諦めなかった。十代前半の少女のようなプロポーションからは想像もつかないすさまじい力を振り絞り、必死で生きようとする。野生において諦観は美徳じゃない。ただ生きるのみ。

自身の命が尽きるその瞬間まで。

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