この世界のアラクネは密林の覇者。ロボを従え覇道を生きる

一頭の雌が産む子の数

ヒト蜘蛛アラクネは、一度の受精で二十個前後の卵を作るらしいが、母親の体内で共食いをし、最終的に外の世界に出てくるのが二頭ないし三頭程度と見られている。一頭の雌が生涯に卵を産む回数は五回から十回と現時点では見られており、それで言えば、一頭の雌が産む子の数は、理論上は最大三十頭ほどと言えるだろうか。

しかしその中で成体おとなになれるのは、やはり二頭程度であろう。つまりそれ以外は、成体になれずに、死ぬ。

アベルが生き延びられる確率も、概算で七パーセント弱。二桁に届かない。

過酷ではあるが、野生に生きるということは、そういうものだというのが事実。

ロボットであるバドは、蛮ばんを観察するついでに、アベルの観察を続けた。

そのバドの視線、いや、カメラの前で、アベルの人間のようにも見える部分の＜可愛らしいもの＞から、しょしょしょ～っと尿が放たれた。それが、地上に降り注ぐ際に太陽の光を屈折させて虹を作る。

実は、これは厳密には＜尿＞ではない。人間のようにも見える部分の腎臓に当る器官も本来の人間のそれほどは機能しておらず、その名残りとして過剰な水分を排出、膀胱にあたる器官に送り出し、それが尿のように体外に流れ出すことがあるだけで、その成分は尿よりもむしろ血液に近いようだ。赤血球は血液中に残されるのでほぼ透明であるが。

ただ、この＜尿のようなもの＞は、成長と共に見られなくなっていく。体に取り込んだ水分をより上手く活用できるようになっていくからと推測されている。これは翻って幼体のうちは余剰水分を上手く活用できないという意味でもあり、水分の補給も成体よりは頻繁に行う必要もあるということとも言える。

そして水分補給は、森殺しフォレストバスターに依存している。というのも、ヒト蜘蛛アラクネをはじめとしたこの台地に生息する動物の一部は＜河＞を非常に恐れており、基本的に近付くことがない。小さな＜川＞についてはそれほど恐れていないようだが、そちらで水分補給をするには当然、木から降りてこなければならず、他のヒト蜘蛛アラクネやボクサー竜ボクサーや猪竜シシといった天敵に狙われる危険性も、当然、増大する。

となれば、必然的に森殺しフォレストバスターが頼りになる。が、木々のてっぺんを越えて蔓を伸ばす森殺しフォレストバスターではあるものの、さすがに上の方になればなるほど蓄えている水も少ない。そういう意味でも頻繁に水分補給が必要になる。体が小さい分、なんとかなっているだけと言えるだろうか。

今も、アベルは、森殺しフォレストバスターの蔓を齧り水を出させ、それをごくごくと飲んでいた。それは、幼い子供がホースから直接水を飲んでいるようにも見えたのだった。