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絶好の機会
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こうして延々とバドに攻撃を仕掛け、バドを木の幹に押し付けるように下がらせ逃げられないようにした蛮だが、人間に比べれば圧倒的なスタミナも見せつけたが、やはり生物である以上は限界があった。
ぜえぜえと息を切らし、明らかに動きが鈍くなる。それをバドは見逃さず、スパッと飛び退いて距離を取り、そのまま茂みの中へと姿を消す。
「ゲ…ハァッ……!!」
蛮はそれを追おうとするものの、体がいうことを聞かない。これにより、まんまと逃げられてしまったのである。
「バアッ……バアッ……!!」
普通にしていれば造形だけなら美女にも見える顔は一気に二十歳くらい老け込んでしまったかのような印象を受けるほどに疲弊し、だらだらと汗をかいて髪はべっとりと肌に貼り付いた。ヒト蜘蛛としての本体の側も、小刻みに震えている。疲れすぎて神経が昂っているのかもしれない。
しかし、少しして呼吸が整ってくると、彼は手近な森殺しの蔓を嚙みちぎって水を噴き出させ、それをごくごくと飲み、さらに頭から被って体を冷やそうとした。そうすれば体が冷えることを彼は知っていたのだ。
一方、蛮の攻撃を凌ぎ切ったバドは、ぐるりと大きく回り込んで彼の背後に位置取り、観察を続けた。
淡々と。ただ淡々と。
それとは知らず、蛮は、いくらかは回復したものの限度をわきまえず自身の限界を超えてバドを攻撃し続けたため、満足に動くこともできなくなっていた。
これは、はっきり言って危険な状態だった。いかにヒト蜘蛛がこの密林においては最上位の捕食者とはいえ、それはあくまで自身が万全であればの話。
無茶をし過ぎたことで体調に異変が生じていたのだ。代謝のバランスが保てず、意識が朦朧となる。
何とか樹上に退避しようと試みるが、力が入らない。満足に体が動かない。
「…? ……?」
蛮にとっても理解不能な異変だった。普通のヒト蜘蛛はここまで無茶なことはしない。そもそも、バドも早々に逃げることができていたはずだった。なのに、蛮が強すぎて、そして執着が強すぎて、バドを逃がさなかったのだ。自身の限界を超えて攻撃を続けることができてしまうくらいに。
すると、木々の陰から、そんな彼を見ている者がいた。バド以外にも。
その数、十数頭。
「ルルルルルルル……」
小さく唸りつつ、そいつらは慎重に移動していた。散開し、蛮を囲んでいく。
ボクサー竜だった。ボクサー竜が、満足に動くこともままならなくなった彼を狙っているのだ。
普段は、真っ向戦っても勝てる相手ではないものの、こうして周囲を囲もうとしているというのにそれにも気付かない。
<絶好の機会>であった。
ぜえぜえと息を切らし、明らかに動きが鈍くなる。それをバドは見逃さず、スパッと飛び退いて距離を取り、そのまま茂みの中へと姿を消す。
「ゲ…ハァッ……!!」
蛮はそれを追おうとするものの、体がいうことを聞かない。これにより、まんまと逃げられてしまったのである。
「バアッ……バアッ……!!」
普通にしていれば造形だけなら美女にも見える顔は一気に二十歳くらい老け込んでしまったかのような印象を受けるほどに疲弊し、だらだらと汗をかいて髪はべっとりと肌に貼り付いた。ヒト蜘蛛としての本体の側も、小刻みに震えている。疲れすぎて神経が昂っているのかもしれない。
しかし、少しして呼吸が整ってくると、彼は手近な森殺しの蔓を嚙みちぎって水を噴き出させ、それをごくごくと飲み、さらに頭から被って体を冷やそうとした。そうすれば体が冷えることを彼は知っていたのだ。
一方、蛮の攻撃を凌ぎ切ったバドは、ぐるりと大きく回り込んで彼の背後に位置取り、観察を続けた。
淡々と。ただ淡々と。
それとは知らず、蛮は、いくらかは回復したものの限度をわきまえず自身の限界を超えてバドを攻撃し続けたため、満足に動くこともできなくなっていた。
これは、はっきり言って危険な状態だった。いかにヒト蜘蛛がこの密林においては最上位の捕食者とはいえ、それはあくまで自身が万全であればの話。
無茶をし過ぎたことで体調に異変が生じていたのだ。代謝のバランスが保てず、意識が朦朧となる。
何とか樹上に退避しようと試みるが、力が入らない。満足に体が動かない。
「…? ……?」
蛮にとっても理解不能な異変だった。普通のヒト蜘蛛はここまで無茶なことはしない。そもそも、バドも早々に逃げることができていたはずだった。なのに、蛮が強すぎて、そして執着が強すぎて、バドを逃がさなかったのだ。自身の限界を超えて攻撃を続けることができてしまうくらいに。
すると、木々の陰から、そんな彼を見ている者がいた。バド以外にも。
その数、十数頭。
「ルルルルルルル……」
小さく唸りつつ、そいつらは慎重に移動していた。散開し、蛮を囲んでいく。
ボクサー竜だった。ボクサー竜が、満足に動くこともままならなくなった彼を狙っているのだ。
普段は、真っ向戦っても勝てる相手ではないものの、こうして周囲を囲もうとしているというのにそれにも気付かない。
<絶好の機会>であった。
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