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荒波 3
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「メル。着いたよ」
耳元で声がして、ハッとして顔を上げたメルリーナは予想以上の近い距離で覗き込むゲイリーに驚くあまり馬車の窓に頭を打ち付けそうになった。
「おっと、危ない」
大きな手が抱えるようにして守ってくれたのは有難かったが、そのせいで余計に近づき、鼻先がくっ付きそうだ。
「行きたくなければ、戻ろう。それに……話したければ、僕が聞くよ?」
既に目的地であるリヴィエールの宮殿には着いているものの、出直したって構わないだろうと言うゲイリーに、首を横に振った。
「ラザール様にまた会いに来るって、ディーと約束したから」
父ギュスターヴとの、対話と言うよりも父の一方的な懺悔であった再会を終えたメルリーナは、その足でリヴィエールの宮殿へ向かった。
頭の中はごちゃごちゃで、胸の内には色んな想いが渦巻いていたけれど、それを吐き出せる相手は母とマクシム、父や祖母のことを知っているラザールしかいないと思った。
ジゼルの出自が明らかになるような手掛かりがあったわけでもなく、結局自分の居場所はイースデイル家にはないということに変わりはなく、ディオンとのことも、未来のことも何一つ解決していない。
それでも、メルリーナは不思議と帆が風を捕まえた時のように、ぐんと前に進む力を得たような気がした。
これまでの辛い思いがすべてなくなったわけではないけれど、父ギュスターヴに憎まれていたわけでなかったと知って、嬉しかった。
ギュスターヴなりに、メルリーナのことを想ってくれていたと知って、嬉しかった。
でも、リヴィエール以外で生きていくという道が現実的なものとなったことで、ディオンの傍以外で生きる未来も現実味を帯びてしまった。
「一緒に行く。邪魔はしないから」
ゲイリーは、いつになく真剣な目でメルリーナを見つめて、宣言した。
今までなら、きっと頷いただろう。
でも、メルリーナは今にも重なりそうで、でもきっと重なることはないゲイリーの唇からほんの少し離れただけの距離で、きっぱりと断った。
「ひとりで行きます。これは、私の……私とディーの未来の問題だから」
ゲイリーの緑色の瞳が驚愕に見開かれ、そこに色んな感情が過ぎるのをメルリーナはじっと見つめた。
その中に、探していた答えの欠片があった。
いつも、ゲイリーがどうしてあんなに色んなことをしてくれるのか、どうしてディオンを挑発するような真似をするのか、わからなかった。
近くにいて、メルリーナの気持ちにいつも寄り添ってくれるけれど、ゲイリー自身の気持ちはいつも海霧に覆われたように見通すことが出来なかった。
「心配してくれて、ありがとうございます」
「メル。僕は、心配しているんじゃないよ。嫉妬しているんだよ」
むっとしたように言い返すゲイリーに、メルリーナは苦笑した。
「はい」
ゲイリーは、がっくりと項垂れてぼやく。
「……はぁ……どう考えても、僕の方がいいと十人中九人は言うと思うけどね?」
「私もそう思います」
「だったら……」
ゲイリーは、メルリーナが助けを求めれば、きっと出来る限りのことをしてくれる。
ブラッドフォードも、何だかんだと文句を言いながらも、きっと手助けしてくれる。
アデルも、ジョージアナも、もしかしたらハワードも、メルリーナをウィスバーデンに受け入れてくれるかもしれない。
きっと、その方がリヴィエールを離れて暮らすとしても、大変な思いをせずに済むだろう。
でも、そこにディオンはいない。
ディオンがリヴィエールを離れ、メルリーナ自身がリヴィエールを離れ、バラバラに過ごした年月は不幸だったわけではないし、楽しくなかったわけでもない。
でも、いつもどこかが欠けているようで、いつも何かを探していた。
顔を上げ、期待に目を輝かせるゲイリーに、メルリーナは長い間口にするのを忘れていたことを告げた。
「でも、私はディーが好きだから」
朝焼けの海が、ずっと変わらず好きだった。
大人になって、色んなことを考えなくてはならなくなって、もう昔のように一緒にいることは難しいかもしれないけれど、ディオンの心の中から閉め出されない限りは、傍にいたい。
ディオンが手を伸ばしてくれる限りは、その手を放したくない。
「ウィスバーデンへ戻って、アデル様がお母様の妹だって確かめられても、ディーが待っていてくれるなら、リヴィエールに帰る」
フランツィスカとディオンが結ばれるにしても、目を背けたりはしない。
欲しいものを欲しくないと言って、信じたいものを信じたくないと言って、後悔したくない。
ギュスターヴが自らの過ちから教えてくれたのは、そういうことだ。
「怖くても、逃げない」
ゲイリーは、黙ってメルリーナの言葉を聞いていたが、ふっと苦笑した。
「勝算はあったんだけどな……でも、まだ完全に勝負が着いたわけじゃないからね。メルの不幸を願うわけじゃないけれど、傷心のメルを慰める役を貰えるかもしれないし……ああ、でも、あのクソガキを有頂天にさせるのは癪に障るな」
メルリーナから身を離し、くしゃりと綺麗に撫でつけられた髪を掻き上げたゲイリーが、何やら黒い笑みを浮かべた。
馬車の扉を開けようかどうしようか迷っているらしい御者の姿が窓から覗くのを見て、メルリーナが早く降りようと立ち上がりかけたところ、その膝の上に引き倒された。
「きゃっ」
後ろ向きに膝の上へ乗っかる形になったメルリーナを羽交い絞めにしたゲイリーは、その鼻先で耳の後ろをくすぐる。
「げ、ゲイリーさんっ!」
身を捩って逃れようとするメルリーナの肩に、熱くて柔らかいものが触れた。
「……っ!」
何をする気だと硬直している間に、それは項や少しだけ開いた背中へと移動する。
「やっ……!」
何をされているのかはわからないが、何かとんでもないことをされているに違いない。
必死になって逃れようとするメルリーナを強く抱きすくめたゲイリーが、耳のすぐ下に唇を押し当てると微かな痛みが走った。
「いっ」
「ごめん、メル。そんなに長くは残らないから」
「……?」
ようやく解放されたメルリーナが振り返り、涙目になって睨むとゲイリーはにやりと笑う。
「メルの大好きなディーと仲良くなれるおまじないだよ」
絶対に嘘だ、と目で訴えれば、ゲイリーはその笑みを力ないものに変え、メルリーナの胸元で漂っていた巻貝を指先で弾いた。
「ちょっとくらいの意地悪は許されると思うけど。……明日、昼までに戻らなかったら迎えに来るよ」
馬車の扉を開け、メルリーナに手を貸しながら、ゲイリーが不可解なことを言う。
迎えに来るも何も、ラザールに会ったら港の宿に戻るつもりだと首を傾げれば「わかってないなぁ」と呟かれた。
「今日のメルはとっても綺麗だから、手放したくなくなるってことだよ」
そんなことはない、と恥ずかしさに視線を彷徨わせたメルリーナは、宮殿の入り口にセヴランの姿を見つけてほっとした。
久しぶりのドレス姿でぎこちなく階段を上るメルリーナに、ゲイリーが呼びかけた。
「メル」
振り返れば、意味深な笑みを向けられた。
「駆け引きは必要ないけれど、時には違う味を加えることも必要だからね」
◇◆
「先ほど様子を窺ったところ、ラザール様は寝ていらっしゃいましたが、美しい女性の見舞いともなれば瞬時に目が覚めるでしょう」
「でも、眠っているところを邪魔したくは……」
「ここ最近は、無理矢理にでも起こさなければ、目を覚ましませんから」
セヴランの言葉に、メルリーナはラザールが旅立つ日はやはりそう遠くはないのだと、思った。
眠るようにして逝ってしまうのかもしれないが、その時、傍にいられないかもしれないと思うと、それだけでリヴィエールを離れることを躊躇ってしまう。
「もうひとりの方は朝から落ち着きなく歩き回っていましたが、午後からはウィスバーデンを含めた近隣諸国の動向を探った結果を基に、リーフラントへの援助についてアラン様と案を話し合っているところです」
ディオンも忙しいのだということはわかっていたが、出来れば少しでも顔を見たかった。
「あの……」
「アラン様は、その後別の予定が入っていますので、間もなく切り上げるでしょう。フランツィスカ王女は、グレース様と一緒にリーフラントに出入りしている商人などからあちらの様子を伺い、アラン様たちとは別に、自身でカーディナル皇帝へリーフラント国王からの親書を届けるための準備をしています」
まるでメルリーナの頭の中を覗いているかのように、先回りして応えてくれるセヴランには驚かされるばかりだが、リーフラント国王からの親書と聞いて、メルリーナは目を瞬いた。
「あの、リーフラント国王……って」
「フランツィスカ王女は、何の計画もなくいきなり船に乗るような冒険はしませんよ。今回、リヴィエールに助けを求めたのも、その先にあるカーディナルへの繋ぎとしての意味合いを含んだもので、もちろんそれはリーフラント国王の意思の下に計画された行動です。下手な外交官を送り込むより、フランツィスカ王女の方がリヴィエールやカーディナルでは顔も広く、説得しやすいですからね。危険を承知で向かわせたのは、それだけ切羽詰まっているということでしょう」
フランチェスカが内情を暴露する前からアランはわかっていたし、だからこそ先にカーディナルへ知らせたのだとセヴランは微笑んだ。
「そこにディオン様との婚約をねじ込んで来るあたり、フランツィスカ王女には強かな一面もありますが、まだまだ可愛らしい策略です」
その可愛らしい策略にうっかりハマりそうなディオンが不甲斐ないと微笑みながら酷評したセヴランは、ラザールの部屋までメルリーナを案内し、扉を開いてくれたとき微かに眉を引き上げた。
「メルリーナ様。今夜、滞在されるお部屋を用意しておきましょう。無駄とは思いますが、ディオン様の部屋からはなるべく離れたところに」
「え? でも……」
泊まるつもりはないと言えば、セヴランには言わなくともわかっているというような笑みを返され、無視された。
「では、ごゆっくり」
静かに扉が閉ざされ、薄暗い部屋の中をラザールの眠る寝台まで歩み寄ったメルリーナは、寄せられた椅子にそっと腰を下ろした。
「メルリーナ」
いきなり呼びかけられて、思わず椅子から飛び上がったが、目を開けたラザールが笑っていた。
「お、おはよう、ございます……遅くなってしまって……」
「一日中暇にしているんだ。気にするな。おお、ドレスか! 明るいところで、ぜひ見せてくれ」
カーテンを引いて窓からの光を入れ、起き上がろうとするラザールに手を貸す。
枕をいくつか背にあてて、居心地が悪くないか確かめていると、ラザールがくすくすと笑い出す。
「ディオンが舞い上がりそうだな? しかも……なかなかいい趣向だ」
ラザールが首筋を指で叩く仕草に、一体何のことだろうと首を傾げて首を摩る。
「普通に考えれば、ディオンに勝ち目はないんだが……メルが広い海を知る前に捕まえた者勝ちだな」
「あの……?」
話が見えない、と目を瞬くメルリーナに、難しいことは何もないのだと言い、ラザールはギュスターヴとの再会はどうだったかと尋ねた。
「……お父様は、パスラへ行くつもりだと言っていました」
「そうか。ソランジュとオルガも連れてか?」
「二人が望めば。もし、二人がリヴィエールに残るなら、イースデイルの家名は二人に譲るそうです」
「おまえではなく?」
「今の私がイースデイルを継ぐと、逆に足枷になるからと……その……ディーが……ほかの人と結婚したりしたら、私はきっとリヴィエールにいられないし……他の国で生きていけるように、お金も用意してくれたと聞きました」
「ああ。私が預かっている。ディオンの花嫁になるには十分すぎる持参金だが、ディオンが不甲斐ないようならばメルリーナに渡してやって欲しいと言われた」
「じ、さんきん……?」
そんな話はしていなかったと驚くメルリーナに、ラザールは溜息を吐いた。
「あれも大概、腰抜けだな。マクシムが亡くなった後、おまえの行く先を託せる相手がいなくなったと焦ったのだろう。自分がメルリーナの花嫁支度をすれば、ソランジュやオルガが口出しして来るに違いないからと言って、こちらに押し付けて来た。正式な婚約などしなくとも、ディオンがメルリーナ以外を嫁にするとは思っていなかったのだろう。それが、ディオンが不用意な真似をしたせいで、フランツィスカとの噂が浮上した。そこで、持参金は国外脱出資金に変わったというわけだ」
知らなかったことがまだあったと聞いて、メルリーナは戸惑うばかりだった。
「私としては、メルリーナがディオンの下へ来ると思っていたから引き受けたのだが、メルリーナを不幸にするような真似をすれば、あの世でマクシムに何をされるかわからんからな。あまりにもディオンが不甲斐ないようならば、リヴィエールではない場所で生きる選択を後押ししてやるつもりだ。メルリーナは、孫のようなものだからな。しかも、どちらかと言うと、ディオンより可愛い孫だ」
メルリーナの選択にかかわらず、力になってくれるというラザールに、じわりと滲んだ涙を散らすように瞬きを繰り返した。
「ウィスバーデンを選んでも、構わないぞ」
「そ、れは……」
メルリーナは、胸元の小さな巻貝を握りしめた。
「それは、今はまだ考えていないです」
「そうか」
ほっとしたように微笑むラザールの手を握り、メルリーナはしかしまだリヴィエールには戻れないのだと告げた。
「でも、まだ確かめなくてはならないことがあって……一度、ウィスバーデンに戻ります」
「海は常に危険が付きまとうぞ? ヴァンガード号はリヴィエールの軍艦のように頑丈ではない」
事故や何らかの事情で戻って来られなくなる可能性があると言われたが、メルリーナは頷いた。
「この一年、ヴァンガード号の乗組員たちみんなが助けてくれました。彼らのことを心から信頼しています。大丈夫です」
「ゲルハルト殿下が放さないと言うかもしれないぞ?」
「それは……」
「どこをどう取っても、ディオンよりマシだ。メルリーナも安心して頼れるだろう? 我慢する必要も、待つ必要もない。その手を取れば、憂えることは何もなくなる。今は友情であっても、それが愛情に変わる可能性はあるのではないか?」
ディオンとフランツィスカのことを想い浮かべたメルリーナは、答えは決まっているのに言い淀んでしまった。
「……そう……かもしれません。でも……」
「お祖父様、メル」
軽いノックの音と同時に扉が開き、ディオンが姿を見せた。
「おい。折角、メルリーナと二人きりの時間を堪能していたのに、邪魔をするな」
ラザールが顔をしかめれば、ディオンも仏頂面で答える。
「あんまり浮かれて喋りすぎると、寝込みますよ」
「ご、ごめんなさい! 私がたくさん話したから……」
またしても、病身のラザールに無理をさせてしまったと慌てるメルリーナに、ラザールはそんな心配はいらないと優しく言ってくれた。
「メルリーナと話しているだけで、元気になれる。小うるさいディオンがいなければ、尚いい。呼ばれてもいないのに、勝手に入って来るな。馬鹿者」
「……」
ぎゅっと拳を握りしめ、むすっとした顔で俯くディオンに、メルリーナは喧嘩でも始めるのではないかとオロオロしてしまった。
「ら、ラザール様、また明日来ます。ディーも、ラザール様にお話があったなら、私はもう帰るから……」
「話があるのは、お祖父様ではない!」
苛立ちをそのままぶつけるように言い返され、メルリーナはビクリと身を竦ませた。
「ご、ごめ……」
「あっ! 違うんだ、メルに怒ったんじゃないんだ!」
慌てて詫びるディオンに、ラザールが呆れたヤツだと溜息を吐く。
「成長せんな」
「……メル、ごめん」
しゅんとしたディオンに、大丈夫だと首を振って立ち上がったメルリーナは、ディオンを睨むラザールの頬に軽く口づけた。
「怒ると、身体によくないです……」
「ははっ……これはいい。ディオンを叱りつければ、メルリーナにキスしてもらえるとは。ディオン、どんどん失態を演じろ」
「お祖父様、いい加減にしてください」
「いい加減にするのは、おまえだ。ディオン」
ラザールの言葉に、ディオンは顔を強張らせたが言い返したりはしなかった。
「……行くぞ、メル」
どこへ、と問う間もなく、メルリーナはディオンに引きずられるようにして歩き出す。
「また明日、顔を見せてくれ。昼頃でいいぞ、メルリーナ」
部屋を出る前に聞こえたラザールの声には、何故か笑いが含まれているような気がした。
耳元で声がして、ハッとして顔を上げたメルリーナは予想以上の近い距離で覗き込むゲイリーに驚くあまり馬車の窓に頭を打ち付けそうになった。
「おっと、危ない」
大きな手が抱えるようにして守ってくれたのは有難かったが、そのせいで余計に近づき、鼻先がくっ付きそうだ。
「行きたくなければ、戻ろう。それに……話したければ、僕が聞くよ?」
既に目的地であるリヴィエールの宮殿には着いているものの、出直したって構わないだろうと言うゲイリーに、首を横に振った。
「ラザール様にまた会いに来るって、ディーと約束したから」
父ギュスターヴとの、対話と言うよりも父の一方的な懺悔であった再会を終えたメルリーナは、その足でリヴィエールの宮殿へ向かった。
頭の中はごちゃごちゃで、胸の内には色んな想いが渦巻いていたけれど、それを吐き出せる相手は母とマクシム、父や祖母のことを知っているラザールしかいないと思った。
ジゼルの出自が明らかになるような手掛かりがあったわけでもなく、結局自分の居場所はイースデイル家にはないということに変わりはなく、ディオンとのことも、未来のことも何一つ解決していない。
それでも、メルリーナは不思議と帆が風を捕まえた時のように、ぐんと前に進む力を得たような気がした。
これまでの辛い思いがすべてなくなったわけではないけれど、父ギュスターヴに憎まれていたわけでなかったと知って、嬉しかった。
ギュスターヴなりに、メルリーナのことを想ってくれていたと知って、嬉しかった。
でも、リヴィエール以外で生きていくという道が現実的なものとなったことで、ディオンの傍以外で生きる未来も現実味を帯びてしまった。
「一緒に行く。邪魔はしないから」
ゲイリーは、いつになく真剣な目でメルリーナを見つめて、宣言した。
今までなら、きっと頷いただろう。
でも、メルリーナは今にも重なりそうで、でもきっと重なることはないゲイリーの唇からほんの少し離れただけの距離で、きっぱりと断った。
「ひとりで行きます。これは、私の……私とディーの未来の問題だから」
ゲイリーの緑色の瞳が驚愕に見開かれ、そこに色んな感情が過ぎるのをメルリーナはじっと見つめた。
その中に、探していた答えの欠片があった。
いつも、ゲイリーがどうしてあんなに色んなことをしてくれるのか、どうしてディオンを挑発するような真似をするのか、わからなかった。
近くにいて、メルリーナの気持ちにいつも寄り添ってくれるけれど、ゲイリー自身の気持ちはいつも海霧に覆われたように見通すことが出来なかった。
「心配してくれて、ありがとうございます」
「メル。僕は、心配しているんじゃないよ。嫉妬しているんだよ」
むっとしたように言い返すゲイリーに、メルリーナは苦笑した。
「はい」
ゲイリーは、がっくりと項垂れてぼやく。
「……はぁ……どう考えても、僕の方がいいと十人中九人は言うと思うけどね?」
「私もそう思います」
「だったら……」
ゲイリーは、メルリーナが助けを求めれば、きっと出来る限りのことをしてくれる。
ブラッドフォードも、何だかんだと文句を言いながらも、きっと手助けしてくれる。
アデルも、ジョージアナも、もしかしたらハワードも、メルリーナをウィスバーデンに受け入れてくれるかもしれない。
きっと、その方がリヴィエールを離れて暮らすとしても、大変な思いをせずに済むだろう。
でも、そこにディオンはいない。
ディオンがリヴィエールを離れ、メルリーナ自身がリヴィエールを離れ、バラバラに過ごした年月は不幸だったわけではないし、楽しくなかったわけでもない。
でも、いつもどこかが欠けているようで、いつも何かを探していた。
顔を上げ、期待に目を輝かせるゲイリーに、メルリーナは長い間口にするのを忘れていたことを告げた。
「でも、私はディーが好きだから」
朝焼けの海が、ずっと変わらず好きだった。
大人になって、色んなことを考えなくてはならなくなって、もう昔のように一緒にいることは難しいかもしれないけれど、ディオンの心の中から閉め出されない限りは、傍にいたい。
ディオンが手を伸ばしてくれる限りは、その手を放したくない。
「ウィスバーデンへ戻って、アデル様がお母様の妹だって確かめられても、ディーが待っていてくれるなら、リヴィエールに帰る」
フランツィスカとディオンが結ばれるにしても、目を背けたりはしない。
欲しいものを欲しくないと言って、信じたいものを信じたくないと言って、後悔したくない。
ギュスターヴが自らの過ちから教えてくれたのは、そういうことだ。
「怖くても、逃げない」
ゲイリーは、黙ってメルリーナの言葉を聞いていたが、ふっと苦笑した。
「勝算はあったんだけどな……でも、まだ完全に勝負が着いたわけじゃないからね。メルの不幸を願うわけじゃないけれど、傷心のメルを慰める役を貰えるかもしれないし……ああ、でも、あのクソガキを有頂天にさせるのは癪に障るな」
メルリーナから身を離し、くしゃりと綺麗に撫でつけられた髪を掻き上げたゲイリーが、何やら黒い笑みを浮かべた。
馬車の扉を開けようかどうしようか迷っているらしい御者の姿が窓から覗くのを見て、メルリーナが早く降りようと立ち上がりかけたところ、その膝の上に引き倒された。
「きゃっ」
後ろ向きに膝の上へ乗っかる形になったメルリーナを羽交い絞めにしたゲイリーは、その鼻先で耳の後ろをくすぐる。
「げ、ゲイリーさんっ!」
身を捩って逃れようとするメルリーナの肩に、熱くて柔らかいものが触れた。
「……っ!」
何をする気だと硬直している間に、それは項や少しだけ開いた背中へと移動する。
「やっ……!」
何をされているのかはわからないが、何かとんでもないことをされているに違いない。
必死になって逃れようとするメルリーナを強く抱きすくめたゲイリーが、耳のすぐ下に唇を押し当てると微かな痛みが走った。
「いっ」
「ごめん、メル。そんなに長くは残らないから」
「……?」
ようやく解放されたメルリーナが振り返り、涙目になって睨むとゲイリーはにやりと笑う。
「メルの大好きなディーと仲良くなれるおまじないだよ」
絶対に嘘だ、と目で訴えれば、ゲイリーはその笑みを力ないものに変え、メルリーナの胸元で漂っていた巻貝を指先で弾いた。
「ちょっとくらいの意地悪は許されると思うけど。……明日、昼までに戻らなかったら迎えに来るよ」
馬車の扉を開け、メルリーナに手を貸しながら、ゲイリーが不可解なことを言う。
迎えに来るも何も、ラザールに会ったら港の宿に戻るつもりだと首を傾げれば「わかってないなぁ」と呟かれた。
「今日のメルはとっても綺麗だから、手放したくなくなるってことだよ」
そんなことはない、と恥ずかしさに視線を彷徨わせたメルリーナは、宮殿の入り口にセヴランの姿を見つけてほっとした。
久しぶりのドレス姿でぎこちなく階段を上るメルリーナに、ゲイリーが呼びかけた。
「メル」
振り返れば、意味深な笑みを向けられた。
「駆け引きは必要ないけれど、時には違う味を加えることも必要だからね」
◇◆
「先ほど様子を窺ったところ、ラザール様は寝ていらっしゃいましたが、美しい女性の見舞いともなれば瞬時に目が覚めるでしょう」
「でも、眠っているところを邪魔したくは……」
「ここ最近は、無理矢理にでも起こさなければ、目を覚ましませんから」
セヴランの言葉に、メルリーナはラザールが旅立つ日はやはりそう遠くはないのだと、思った。
眠るようにして逝ってしまうのかもしれないが、その時、傍にいられないかもしれないと思うと、それだけでリヴィエールを離れることを躊躇ってしまう。
「もうひとりの方は朝から落ち着きなく歩き回っていましたが、午後からはウィスバーデンを含めた近隣諸国の動向を探った結果を基に、リーフラントへの援助についてアラン様と案を話し合っているところです」
ディオンも忙しいのだということはわかっていたが、出来れば少しでも顔を見たかった。
「あの……」
「アラン様は、その後別の予定が入っていますので、間もなく切り上げるでしょう。フランツィスカ王女は、グレース様と一緒にリーフラントに出入りしている商人などからあちらの様子を伺い、アラン様たちとは別に、自身でカーディナル皇帝へリーフラント国王からの親書を届けるための準備をしています」
まるでメルリーナの頭の中を覗いているかのように、先回りして応えてくれるセヴランには驚かされるばかりだが、リーフラント国王からの親書と聞いて、メルリーナは目を瞬いた。
「あの、リーフラント国王……って」
「フランツィスカ王女は、何の計画もなくいきなり船に乗るような冒険はしませんよ。今回、リヴィエールに助けを求めたのも、その先にあるカーディナルへの繋ぎとしての意味合いを含んだもので、もちろんそれはリーフラント国王の意思の下に計画された行動です。下手な外交官を送り込むより、フランツィスカ王女の方がリヴィエールやカーディナルでは顔も広く、説得しやすいですからね。危険を承知で向かわせたのは、それだけ切羽詰まっているということでしょう」
フランチェスカが内情を暴露する前からアランはわかっていたし、だからこそ先にカーディナルへ知らせたのだとセヴランは微笑んだ。
「そこにディオン様との婚約をねじ込んで来るあたり、フランツィスカ王女には強かな一面もありますが、まだまだ可愛らしい策略です」
その可愛らしい策略にうっかりハマりそうなディオンが不甲斐ないと微笑みながら酷評したセヴランは、ラザールの部屋までメルリーナを案内し、扉を開いてくれたとき微かに眉を引き上げた。
「メルリーナ様。今夜、滞在されるお部屋を用意しておきましょう。無駄とは思いますが、ディオン様の部屋からはなるべく離れたところに」
「え? でも……」
泊まるつもりはないと言えば、セヴランには言わなくともわかっているというような笑みを返され、無視された。
「では、ごゆっくり」
静かに扉が閉ざされ、薄暗い部屋の中をラザールの眠る寝台まで歩み寄ったメルリーナは、寄せられた椅子にそっと腰を下ろした。
「メルリーナ」
いきなり呼びかけられて、思わず椅子から飛び上がったが、目を開けたラザールが笑っていた。
「お、おはよう、ございます……遅くなってしまって……」
「一日中暇にしているんだ。気にするな。おお、ドレスか! 明るいところで、ぜひ見せてくれ」
カーテンを引いて窓からの光を入れ、起き上がろうとするラザールに手を貸す。
枕をいくつか背にあてて、居心地が悪くないか確かめていると、ラザールがくすくすと笑い出す。
「ディオンが舞い上がりそうだな? しかも……なかなかいい趣向だ」
ラザールが首筋を指で叩く仕草に、一体何のことだろうと首を傾げて首を摩る。
「普通に考えれば、ディオンに勝ち目はないんだが……メルが広い海を知る前に捕まえた者勝ちだな」
「あの……?」
話が見えない、と目を瞬くメルリーナに、難しいことは何もないのだと言い、ラザールはギュスターヴとの再会はどうだったかと尋ねた。
「……お父様は、パスラへ行くつもりだと言っていました」
「そうか。ソランジュとオルガも連れてか?」
「二人が望めば。もし、二人がリヴィエールに残るなら、イースデイルの家名は二人に譲るそうです」
「おまえではなく?」
「今の私がイースデイルを継ぐと、逆に足枷になるからと……その……ディーが……ほかの人と結婚したりしたら、私はきっとリヴィエールにいられないし……他の国で生きていけるように、お金も用意してくれたと聞きました」
「ああ。私が預かっている。ディオンの花嫁になるには十分すぎる持参金だが、ディオンが不甲斐ないようならばメルリーナに渡してやって欲しいと言われた」
「じ、さんきん……?」
そんな話はしていなかったと驚くメルリーナに、ラザールは溜息を吐いた。
「あれも大概、腰抜けだな。マクシムが亡くなった後、おまえの行く先を託せる相手がいなくなったと焦ったのだろう。自分がメルリーナの花嫁支度をすれば、ソランジュやオルガが口出しして来るに違いないからと言って、こちらに押し付けて来た。正式な婚約などしなくとも、ディオンがメルリーナ以外を嫁にするとは思っていなかったのだろう。それが、ディオンが不用意な真似をしたせいで、フランツィスカとの噂が浮上した。そこで、持参金は国外脱出資金に変わったというわけだ」
知らなかったことがまだあったと聞いて、メルリーナは戸惑うばかりだった。
「私としては、メルリーナがディオンの下へ来ると思っていたから引き受けたのだが、メルリーナを不幸にするような真似をすれば、あの世でマクシムに何をされるかわからんからな。あまりにもディオンが不甲斐ないようならば、リヴィエールではない場所で生きる選択を後押ししてやるつもりだ。メルリーナは、孫のようなものだからな。しかも、どちらかと言うと、ディオンより可愛い孫だ」
メルリーナの選択にかかわらず、力になってくれるというラザールに、じわりと滲んだ涙を散らすように瞬きを繰り返した。
「ウィスバーデンを選んでも、構わないぞ」
「そ、れは……」
メルリーナは、胸元の小さな巻貝を握りしめた。
「それは、今はまだ考えていないです」
「そうか」
ほっとしたように微笑むラザールの手を握り、メルリーナはしかしまだリヴィエールには戻れないのだと告げた。
「でも、まだ確かめなくてはならないことがあって……一度、ウィスバーデンに戻ります」
「海は常に危険が付きまとうぞ? ヴァンガード号はリヴィエールの軍艦のように頑丈ではない」
事故や何らかの事情で戻って来られなくなる可能性があると言われたが、メルリーナは頷いた。
「この一年、ヴァンガード号の乗組員たちみんなが助けてくれました。彼らのことを心から信頼しています。大丈夫です」
「ゲルハルト殿下が放さないと言うかもしれないぞ?」
「それは……」
「どこをどう取っても、ディオンよりマシだ。メルリーナも安心して頼れるだろう? 我慢する必要も、待つ必要もない。その手を取れば、憂えることは何もなくなる。今は友情であっても、それが愛情に変わる可能性はあるのではないか?」
ディオンとフランツィスカのことを想い浮かべたメルリーナは、答えは決まっているのに言い淀んでしまった。
「……そう……かもしれません。でも……」
「お祖父様、メル」
軽いノックの音と同時に扉が開き、ディオンが姿を見せた。
「おい。折角、メルリーナと二人きりの時間を堪能していたのに、邪魔をするな」
ラザールが顔をしかめれば、ディオンも仏頂面で答える。
「あんまり浮かれて喋りすぎると、寝込みますよ」
「ご、ごめんなさい! 私がたくさん話したから……」
またしても、病身のラザールに無理をさせてしまったと慌てるメルリーナに、ラザールはそんな心配はいらないと優しく言ってくれた。
「メルリーナと話しているだけで、元気になれる。小うるさいディオンがいなければ、尚いい。呼ばれてもいないのに、勝手に入って来るな。馬鹿者」
「……」
ぎゅっと拳を握りしめ、むすっとした顔で俯くディオンに、メルリーナは喧嘩でも始めるのではないかとオロオロしてしまった。
「ら、ラザール様、また明日来ます。ディーも、ラザール様にお話があったなら、私はもう帰るから……」
「話があるのは、お祖父様ではない!」
苛立ちをそのままぶつけるように言い返され、メルリーナはビクリと身を竦ませた。
「ご、ごめ……」
「あっ! 違うんだ、メルに怒ったんじゃないんだ!」
慌てて詫びるディオンに、ラザールが呆れたヤツだと溜息を吐く。
「成長せんな」
「……メル、ごめん」
しゅんとしたディオンに、大丈夫だと首を振って立ち上がったメルリーナは、ディオンを睨むラザールの頬に軽く口づけた。
「怒ると、身体によくないです……」
「ははっ……これはいい。ディオンを叱りつければ、メルリーナにキスしてもらえるとは。ディオン、どんどん失態を演じろ」
「お祖父様、いい加減にしてください」
「いい加減にするのは、おまえだ。ディオン」
ラザールの言葉に、ディオンは顔を強張らせたが言い返したりはしなかった。
「……行くぞ、メル」
どこへ、と問う間もなく、メルリーナはディオンに引きずられるようにして歩き出す。
「また明日、顔を見せてくれ。昼頃でいいぞ、メルリーナ」
部屋を出る前に聞こえたラザールの声には、何故か笑いが含まれているような気がした。
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