キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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きつねの嫁入り 2

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 春之助の言葉に視線を戻せば、薄闇の中をいくつものぶら提灯の明かりがこちらへ近づいてくるのが見えた。

 今日、秋弦が花嫁を迎えるということは照葉の国中に知らせてあったので、朝から城下の通りは場所取りやら見物客目当ての屋台やらが溢れかえっている。

 昼過ぎには天気雨が降って空に虹がかかり、まさに「狐の嫁入り」だと狐の面を売るものまで現れた。

 行列はみな狐のはずだが人に化け、先導している者は半裃はんかみしも姿。続く者たちも黒の紋付袴もんつきはかま姿やら豪奢な金糸の刺繍が入った留袖とめそで姿とまるで人の嫁入りのようだ。

 駕籠は覆いを開けているらしく、花嫁が見えるのか、子どもたちがしきりに手を振ったりはやし立てたりしている。

 駕籠の後から続く美しい女子たちはハラハラと紅葉を撒いているが、手にした者が歓声を上げているところをみると、妖術で金にでも変わるのかもしれない。

 最後の日の光が西の空に消えたとき、駆け寄りたい気持ちを堪えてじっと待つ秋弦の前に、ようやく駕籠が到着した。

 如月と角右衛門が何やら口上を述べあっているが、秋弦の意識は駕籠から降り立った美しい花嫁だけに向けられていた。

「秋弦さま」

 見事な九尾の狐が刺繍された白無垢の裾から覗く鮮やかな紅色と同じ、紅を塗った唇が小さな声で秋弦を呼んだ。

 色々と七面倒な儀式やら慣習やらがあるのだと、角右衛門と春之助にはさんざん言われていたが、綿帽子の下からそっと見上げる楓の金の瞳を見た途端、そんなものは全部頭の中から綺麗に消えた。

「楓」

 差し出した手に載せられた小さな手を握ると、白い頬がほんのり赤くなる。

「待ちかねたぞ」

「はい。私も」

 秋弦の中で、今すぐ、重ねられた着物を一つ残らず剥ぎ取って、白い肌が桜色に染まる様を見たい気持ちが膨れあがる。

 ひどい渇きと飢えに、楓のあらゆる柔らかな場所を甘噛みしたくて、歯を食いしばって唸り声を堪えた。

「し、秋弦さま?」

 楓が大きく見開いた瞳に凶暴な狼の姿を見て、秋弦は慌てて目をつぶり、深呼吸を繰り返す。

 ――まだ、早い……。

 床入りまでの儀式の半分を省略したとしても、あと一刻は我慢しなければならないだろう。

「大広間で、みなへの披露目をする。行こうか、楓」
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