キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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忘れ去りし記憶 16

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『お揃い……』

 ふさふさした尻尾が横に揺れていて、恥ずかしいのだなと思った秋弦は楓の頭に手を伸ばしてみた。

 楓はちょっと警戒するように身を硬くしたが、撫でていいと言うようにぺたっと耳を倒した。

 ゆっくりと優しく撫でてやると、嬉しそうに顔を綻ばせる。

 狐でも、表情がわかるものなのだと秋弦は興味深く見つめながら、そおっと腕を伸ばしてみた。

 嫌がったらやめようと思いながら少しずつ身体を寄せていく。

 楓は石のように固まっていたが、噛みついたりはせず、秋弦はとうとうそのふわふわの身体を抱きしめることに成功した。

「ふふ……ふわふわしていて、気持ちいい」

『あのう……私、お礼を言っていませんでした』

 ぽつり、と楓が呟いた。

「お礼?」

 お礼なら、自分のほうが言わなくてはならないと驚く秋弦に、楓は金の瞳をじっと見据えて頷く。

『私が毛皮にされそうになっていたところを助けてもらいました』

「あれは……」

 そもそも楓こそ自分を助けようとしてくれたのだと秋弦が言えば、楓は頑なに首を振る。

『十分な力もないのに、出しゃばってしまいました……』

「でも、楓が来てくれなかったら、殺されていたよ……」

『私が出しゃばらなくとも、きっと自分の力で何とかしていたかもしれません。それに、探している人や助けに来てくれる人もいたかもしれません。母さまは、怪我が良くなったら知らせをやろうと言っていますが、もっと早くに知らせなくてもよいでしょうか?』

 心配し、探している人がいるのではないかと言う楓に、秋弦は何とも言えず黙り込んだ。

 あの男たちが自分を殺して誰に渡す気だったのか、秋弦は知らない。

 だが、あの男たちに自分を渡したのが誰だったのかを思うと、帰りたいと素直に言えない。脳裏に浮かんでは消える人が、自分を殺そうとするような奴らと仲間だったなんて、信じたくない。

 本当に探してくれているのなら、きっと迎えに来てくれるはずだった。
 それが、今も誰も探しに来ないということは……。

「怪我が治ったらでいいよ」

『あのっ……』

 うまく笑ったつもりなのに、楓の金色の瞳は心配そうに秋弦を覗き込む。
 そんな風に見つめてくれるだけで、苦しかった秋弦の胸は少し軽くなった。

「大丈夫だよ。楓がいるから、寂しくない」
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