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忘れ去りし記憶 15
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『寒いですか?』
夜着は薄く、確かに肌寒かったが熱のせいだろうと思い、笑って首を振る。
「大丈夫」
しかし、楓の目には、大丈夫には見えなかったらしい。
夜着を秋弦の首まで引っ張り上げると、そのまま自分も潜り込み、秋弦にぴたりと寄り添って伏せた。
『一緒に寝ると、温かいです』
「そうだね……」
楓の毛皮から伝わって来る温もりにほっとする。
『人間の言葉は、ひとつのことを表すのにたくさんあると聞きました。でも、私はまだ子供なので……人間の言葉をたくさん知りません。だから、本当のことをわかりやすく言ってください』
あっという間に、うつらうつらと夢の世界へ引き込まれた秋弦は、耳元で囁く優しい楓の声に頷いた。
次に目が覚めた時、秋弦は随分と身体が軽くなっていることに気が付いた。
試しに起きてみれば、どこも痛くない。
改めて寝ていた場所を見回せば、腰高障子で囲まれた小さな板敷きの部屋だ。
『目が覚めましたか。どこか痛くないですか?』
音もなく障子が開き、楓が姿を見せた。
「楓……うん、だいぶよくなったよ」
『お腹は空いていませんか?』
現世ではないところの食べ物を口にすると、そこから帰れなくなるというおとぎ話がちらりと頭を過ったが、盛大に腹の虫が鳴ってしまい、いらないとは言えなくなった。
『お口に合うかわからないのですが……』
木の実や生の魚が出てくるのでは、と身構えた秋弦の前に楓が咥えておいた駕籠の中には、見事に熟した柿や山葡萄、ちゃんと焼いてある栗と割ってある胡桃、それから何と草餅が入っていた。
草餅は、秋弦の大好物だ。
『草餅は、お供え物です。麓の村のおばあさんがよく作って持ってきてくれるんです』
さすがに狐には作れないかと納得し、秋弦は柔らかくて甘い草餅を頬張った。
よほど頬が緩んでいたのか、楓がくすりと笑った。
『草餅がお好きですか?』
「うん……好きだよ。みたらしだんごと同じくらいにね」
『私も草餅が好きです』
「そうなんだ。毛並みもそうだけど、好きなものもお揃いだね」
『毛並み……』
「楓の半分と同じ色だから」
秋弦が自分の黄金色の髮を摘まんで見せると、楓は黄金の瞳を丸くして、急にふいっと顔を背けた。
夜着は薄く、確かに肌寒かったが熱のせいだろうと思い、笑って首を振る。
「大丈夫」
しかし、楓の目には、大丈夫には見えなかったらしい。
夜着を秋弦の首まで引っ張り上げると、そのまま自分も潜り込み、秋弦にぴたりと寄り添って伏せた。
『一緒に寝ると、温かいです』
「そうだね……」
楓の毛皮から伝わって来る温もりにほっとする。
『人間の言葉は、ひとつのことを表すのにたくさんあると聞きました。でも、私はまだ子供なので……人間の言葉をたくさん知りません。だから、本当のことをわかりやすく言ってください』
あっという間に、うつらうつらと夢の世界へ引き込まれた秋弦は、耳元で囁く優しい楓の声に頷いた。
次に目が覚めた時、秋弦は随分と身体が軽くなっていることに気が付いた。
試しに起きてみれば、どこも痛くない。
改めて寝ていた場所を見回せば、腰高障子で囲まれた小さな板敷きの部屋だ。
『目が覚めましたか。どこか痛くないですか?』
音もなく障子が開き、楓が姿を見せた。
「楓……うん、だいぶよくなったよ」
『お腹は空いていませんか?』
現世ではないところの食べ物を口にすると、そこから帰れなくなるというおとぎ話がちらりと頭を過ったが、盛大に腹の虫が鳴ってしまい、いらないとは言えなくなった。
『お口に合うかわからないのですが……』
木の実や生の魚が出てくるのでは、と身構えた秋弦の前に楓が咥えておいた駕籠の中には、見事に熟した柿や山葡萄、ちゃんと焼いてある栗と割ってある胡桃、それから何と草餅が入っていた。
草餅は、秋弦の大好物だ。
『草餅は、お供え物です。麓の村のおばあさんがよく作って持ってきてくれるんです』
さすがに狐には作れないかと納得し、秋弦は柔らかくて甘い草餅を頬張った。
よほど頬が緩んでいたのか、楓がくすりと笑った。
『草餅がお好きですか?』
「うん……好きだよ。みたらしだんごと同じくらいにね」
『私も草餅が好きです』
「そうなんだ。毛並みもそうだけど、好きなものもお揃いだね」
『毛並み……』
「楓の半分と同じ色だから」
秋弦が自分の黄金色の髮を摘まんで見せると、楓は黄金の瞳を丸くして、急にふいっと顔を背けた。
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