145 / 159
忘れ去りし記憶 12
しおりを挟む
狐は驚いたように座り込んで、じっと秋弦を見つめる。
少しも逃げようとしないその態度に、秋弦は苛立ちながら声を振り絞るようにして叫んだ。
「逃げるんだっ!」
狐は飛び上がって逃げ出したが、数歩先まで行ったところで何を思ったか秋弦の元へと再び駆け戻った。
狐は果敢に男たちの足に噛みつき、ひっかき、秋弦を守ろうとする。
そのうち、焦れた男の足が狐の腹を蹴り上げた。
「きゃんっ」
蹴飛ばされた狐は、木にぶつかるとぐったりと地面に横たわって動かなくなった。
「小さいが、まぁ、悪くない毛並みだ」
狐の尻尾を掴んで引き上げた男が、手にした刀でその腹を裂こうとするのを見て、秋弦の中で何かが大きく膨らんで、弾け飛んだ。
『やめろっ!』
叫んだはずの言葉は唸り声になり、飛び掛かって男の手を引き剥がそうとしたはずが、鋭い牙がその腕に突き刺さっていた。
「う、ぎゃぁぁっ!」
狐を放り出した男が腰を抜かしたところを押し倒し、喉笛を噛み千切る。
秋弦は、自分が人ではないものになっているのだと、怒りで真っ赤に染まった頭の片隅で意識していた。
だが、それがどうしたと思った。
自分は異形だし、本物の異形になってもおかしくない。
「ひ、ひぃぃぃっ」
残る二人も、その腸を引き摺り出してやると、飛び掛かろうとしたとき、一陣の風に吹かれて降り積もった落ち葉が舞い上がった。
「うわっ」
「妖かっ!?」
赤や黄のつむじ風に包まれた男たちへ、いきなり現れた無数の狐が飛びかかった。
「うわぁっ!」
「いてててっ!」
男たちは、狐を追い払おうとして振り回したはずの刀がただの落ち葉になってしまったのを見ると、青ざめた。
じりじりと近づく狐の大群に、じりじりと後退し、脱兎のごとく逃げ出した。
狐たちが、念には念を入れるというように男たちの後を追って消えると、「ポンッ」と甲高い鼓の音がした。
ハッとして顔を上げると、目の前に真っ白くて大きな狐がいた。
空を覆うほどに大きく見える白狐は、長く立派な九つの尾を扇のように広げ、黒い鼻を秋弦の鼻に押し当てた。
『これはまた、珍しい拾いものよのう……まかみのわらべか』
ごくりと唾を飲み込んで、輝く金の瞳をじっと見つめた秋弦は、ふっと白狐が笑ったような気がした。
少しも逃げようとしないその態度に、秋弦は苛立ちながら声を振り絞るようにして叫んだ。
「逃げるんだっ!」
狐は飛び上がって逃げ出したが、数歩先まで行ったところで何を思ったか秋弦の元へと再び駆け戻った。
狐は果敢に男たちの足に噛みつき、ひっかき、秋弦を守ろうとする。
そのうち、焦れた男の足が狐の腹を蹴り上げた。
「きゃんっ」
蹴飛ばされた狐は、木にぶつかるとぐったりと地面に横たわって動かなくなった。
「小さいが、まぁ、悪くない毛並みだ」
狐の尻尾を掴んで引き上げた男が、手にした刀でその腹を裂こうとするのを見て、秋弦の中で何かが大きく膨らんで、弾け飛んだ。
『やめろっ!』
叫んだはずの言葉は唸り声になり、飛び掛かって男の手を引き剥がそうとしたはずが、鋭い牙がその腕に突き刺さっていた。
「う、ぎゃぁぁっ!」
狐を放り出した男が腰を抜かしたところを押し倒し、喉笛を噛み千切る。
秋弦は、自分が人ではないものになっているのだと、怒りで真っ赤に染まった頭の片隅で意識していた。
だが、それがどうしたと思った。
自分は異形だし、本物の異形になってもおかしくない。
「ひ、ひぃぃぃっ」
残る二人も、その腸を引き摺り出してやると、飛び掛かろうとしたとき、一陣の風に吹かれて降り積もった落ち葉が舞い上がった。
「うわっ」
「妖かっ!?」
赤や黄のつむじ風に包まれた男たちへ、いきなり現れた無数の狐が飛びかかった。
「うわぁっ!」
「いてててっ!」
男たちは、狐を追い払おうとして振り回したはずの刀がただの落ち葉になってしまったのを見ると、青ざめた。
じりじりと近づく狐の大群に、じりじりと後退し、脱兎のごとく逃げ出した。
狐たちが、念には念を入れるというように男たちの後を追って消えると、「ポンッ」と甲高い鼓の音がした。
ハッとして顔を上げると、目の前に真っ白くて大きな狐がいた。
空を覆うほどに大きく見える白狐は、長く立派な九つの尾を扇のように広げ、黒い鼻を秋弦の鼻に押し当てた。
『これはまた、珍しい拾いものよのう……まかみのわらべか』
ごくりと唾を飲み込んで、輝く金の瞳をじっと見つめた秋弦は、ふっと白狐が笑ったような気がした。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる