キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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忘れ去りし記憶 4

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 朱理がさっさと歩き出すのを更姫が慌てて追いかけていく。

「いやはや……なんとも豪快な姫君でしたな」

「間違いなく、兄上の好みとは正反対でしたね」

「それでいながら浮気をするとは……」

「まぁ、なかなかに魅力的な体ではありましたが……」

「だから、浮気はしていないっ! 子種も注いでいないっ!」

 疑われるのはまっぴらだと秋弦が叫ぶと、角右衛門と春之助がそろって怖い顔で睨む。

「殿」
「兄上」

「な、なんだ……」

「我らも、殿の無実を疑ってはおりませぬ。言い訳も時には必要でしょう。ですが、まずは平身低頭、詫びの一手が定石と申し上げたはず」

「たとえ妖術で操られていたとしても、好いた男が他の女子と口づけをしているところを見て、傷つかぬわけがないでしょう」

「まずは、楓殿に心から詫びなくてはなりませんぞ」
「そうです。楓殿は少しも悪くないのですから」

「もしも、楓殿が他の男と口づけをしていたら……」
「素っ裸で男が跨っていたら……」

「叩っ斬るっ!」

 脳裏に浮かびかけた絵を脳裏でバッサリ真っ二つにして秋弦が叫ぶと、角右衛門と春之助はそれでいいのだと頷き合う。

「残るは、十年前の一件ですな」
「兄上の記憶が戻らぬことには、伊奈利山にも入れてもらえないでしょう」

 そもそも、どうして忘れたのかもわからないのだ。
 何をどうすれば思い出せるのかわからない。

 三人して腕を組み、唸ったところで部屋の隅に控えていた右近と左近がトコトコと秋弦の傍へやって来た。

『お殿さま、お力添えいたしましょう』
『このままでは、お殿さまが不憫です』

 狐にまで同情されるとはいささか自尊心が傷ついたが、楓をずっと傍に置くためならば、そんなものなど犬にでもくれてやる。

「何かアテでもあるのか? 右近左近」

『はい、たぶん』
『たぶん、はい』

「その黒狐たちも、神使なのですよね? 人の姿を取れるのですか?」

 春之助が秋弦と会話している様子を見て尋ねると、右近と左近はくるりと前方に一回転して少年姿になった。

「右近と申します」
「左近と申します」

 礼儀正しく正座して深々とお辞儀する二人に、春之助と角右衛門は目を丸くしていた。

「二人は、小伊奈利神社を守ってくれているのだ」

「小伊奈利神社……」
「ははぁ……」

「で、アテとは何なのだ?」
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