キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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忘れ去りし記憶 3

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「私と秋弦は、なかなかいい『つがい』になれると思うのだが? 金剛の国に対抗することもできる」

「他の『つがい』はいらないし、照葉の国は争い事を好まない。ただ……約束くらいはしてもいい。私と楓の邪魔をしなければ、銀嶺の国には何もしない、と」

 自分とそっくりな金茶の瞳を真っ向から見据えて告げれば、美しい顔が歪む。

「脅す気か」

「そうだ。私の『つがい』を傷つけた者を根絶やしにしなかっただけでも、十分寛大さを見せたつもりだ」

 秋弦は薄く笑って、更姫と朱理を葬ってもよかったのだと示してやった。

「姫。戦は、引き際が大事。我々こそ、出直すべきかと」

 朱理の言葉に、更姫は悔しそうな表情を隠そうともせず唸ったが、パシンと膝を打って立ち上がった。

「ふんっ! 照葉の国主は趣味が悪いようだと言いふらしてくれよう」

「存分に、言いふらしてくれてかまわない。楓以外の女子が寄って来なければ、面倒が少なくて済む」

「はっ! 肝心の『つがい』を得られなければ、意味はないだろうがな」

「もしも得られなかったら、それは間違いなく更姫のせいだ。きっちり報復しに行く」

 冗談ではない、と本気を眼差しに込めれば更姫はぐっと押し黙った。

「…………」

「だからおやめなさいと申し上げたのです。見た目は弱々しいキツネでも、本性は狼なのですから。あのような、無謀なことをして襲われずに済んだのは幸運です」

 朱理の小言に、更姫は柳眉を吊り上げた。

「無謀とわかっていたなら、なぜ止めないっ!?」

「どうせ破瓜の痛みに耐えかねて、助けてくれと言われるだろうと思いましたので、それからでもよいかと」

「……お、おまえ、おまえはぁっ!」

 つれない朱理に掴みかかる更姫に、秋弦は怖い思いをさせた詫びにひとつだけ、忠告してやった。

「更姫。襲うのは、本当に好いた男にしろ。そうすれば、妖術など使わなくともその気にさせられる。そこの涼しい顔をして、今にも私を刺し殺しそうな眼差しを寄越していた神使にも、有効な手だ」

 ぽかんと口を開けた更姫の顔が、みるみる赤くなる。

「そ、それはっ……」

「……さっさと帰りますよ、姫。十度目の縁談が、めでたく破談になった経緯をさっさと報告しないことには、次の生贄が選ばれてしまいます」

「ま、待てっ! 朱理っ!」
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