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忘れ去りし記憶 2
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「それはっ……まだ、楓との仲がはっきりしていなかったから……」
楓が『つがい』だと言うたびに、自覚のない秋弦の中には疑問が生まれていた。
本当に、自分なのか? と。
十年前の記憶がなく、約束も覚えていないから、自分が言った言葉もわからない。
つがいだから惹かれるのか、それともつがいでなくとも惹かれるのかもわからず、迷いと戸惑いが常に楓への想いとの間に立ちはだかっていた。
だからこそ、更姫がいかにも『つがい』のように強力な魅力を持っていることに対して、警戒する心が薄れていた。
『つがい』とはこうであるべきだという、秋弦の中にあった無意識の思い込みのようなものが、更姫が用いた妖術への疑いを薄めてしまっていたのだ。
「だが、本当のつがいとは本能から見つけるものだとすれば、欲を覚えるのが普通だろう? 私が、今は逆の妖術を――その欲を抑える妖術を使っていると言ったらどうする? 秋弦」
細い指が顎に触れる前に、秋弦は身を引いた。
「そうだとしても、何も変わらない」
楓が矢に貫かれ、死んでしまうかもしれないと思ったとき、秋弦は恐ろしいほどの怒りと絶望に襲われた。
従うべき者たちが、大事な『つがい』を傷つけたことが許せなかった。
秋弦の中にいる『真神』が己に従わぬ神使どもに怒り狂っているのを感じ取り、その力を利用して、楓を傷つけた者たちを葬ってやろうと思った。
特別な術も、言葉もいらなかった。
最初から、そこにあったものを取り出しただけだ。
互いの利益が一致したからこそ、秋弦は真神を棚から降ろしたに過ぎない。
だから、更姫が殺されそうになっていても、そうはならない。
秋弦の中にいる真神は、妖術で操ることなど不可能だ。秋弦が秋弦でなくては、真神は降りないのだから。
更姫たちはそのことを思い知り、諦めたから、こうして大人しく引き下がろうとしている。つがいだ何だとそれらしきことを言って、秋弦を操ろうとした更姫たちの真の目的は、単に秋弦を神殿の者たちへ渡さぬことではない。
神殿が知る以上のものを――それこそ、人の力で操れる力を手にすることだ。
楓が『つがい』だと言うたびに、自覚のない秋弦の中には疑問が生まれていた。
本当に、自分なのか? と。
十年前の記憶がなく、約束も覚えていないから、自分が言った言葉もわからない。
つがいだから惹かれるのか、それともつがいでなくとも惹かれるのかもわからず、迷いと戸惑いが常に楓への想いとの間に立ちはだかっていた。
だからこそ、更姫がいかにも『つがい』のように強力な魅力を持っていることに対して、警戒する心が薄れていた。
『つがい』とはこうであるべきだという、秋弦の中にあった無意識の思い込みのようなものが、更姫が用いた妖術への疑いを薄めてしまっていたのだ。
「だが、本当のつがいとは本能から見つけるものだとすれば、欲を覚えるのが普通だろう? 私が、今は逆の妖術を――その欲を抑える妖術を使っていると言ったらどうする? 秋弦」
細い指が顎に触れる前に、秋弦は身を引いた。
「そうだとしても、何も変わらない」
楓が矢に貫かれ、死んでしまうかもしれないと思ったとき、秋弦は恐ろしいほどの怒りと絶望に襲われた。
従うべき者たちが、大事な『つがい』を傷つけたことが許せなかった。
秋弦の中にいる『真神』が己に従わぬ神使どもに怒り狂っているのを感じ取り、その力を利用して、楓を傷つけた者たちを葬ってやろうと思った。
特別な術も、言葉もいらなかった。
最初から、そこにあったものを取り出しただけだ。
互いの利益が一致したからこそ、秋弦は真神を棚から降ろしたに過ぎない。
だから、更姫が殺されそうになっていても、そうはならない。
秋弦の中にいる真神は、妖術で操ることなど不可能だ。秋弦が秋弦でなくては、真神は降りないのだから。
更姫たちはそのことを思い知り、諦めたから、こうして大人しく引き下がろうとしている。つがいだ何だとそれらしきことを言って、秋弦を操ろうとした更姫たちの真の目的は、単に秋弦を神殿の者たちへ渡さぬことではない。
神殿が知る以上のものを――それこそ、人の力で操れる力を手にすることだ。
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