キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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ほんもののつがい、にせもののつがい 28

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『きゃーっ!』

 楓は、更姫とのこともすっかり忘れ、嬉しさのあまり思わずぴょんと飛び上がり、ごろごろごろと横へ三回転してしまったが、葛葉の足でごろごろごろと再び転がされて元へ戻された。

『簡単すぎるぞえっ! 楓!』

『か、簡単?』

 一体何が簡単すぎるのかわからない、と楓が首を傾げると、葛葉は白い尾を一本びしっと秋弦に突き付けた。

『たわけたことを申すでないっ! そこな更姫とやらが、ほんものの「つがい」だと言うではないか。狼同士、相性もちょうどよかろう。楓のことを欠片も思い出せぬ不甲斐ない輩には、わらわの可愛い娘は嫁にやれぬっ!』

『ええっ! 母さまっ!』

 ひどい、とその足に縋りついた楓をひょいっとくわえて背に放り投げた葛葉は、青ざめる秋弦を見下ろしてくわっと牙を剥いた。

『まこととうそも見抜けぬ節穴な目では、つがいなど一生見つからぬ。狼とやらは、つがいはひとりしか持たぬのだろうっ!』

「だから、そうではないとわかったから楓を……」

『ええい、うるさいっ! 十年前のわらべの頃から出直して参れっ!』

 ドン、と葛葉が前足を叩きつけると地面が割れ、ぐらりと廃寺が揺らぐ。

 葛葉は、頼りない廃寺を踏みつけると、天高く舞い上がった。

 メリメリメリと酷い音がしてドスンッという音と共に寺がぺしゃんこに潰れる。

「かえで―っ!」

 秋弦の声はあっというまに風にかき消され、瞬き一つする間に、葛葉は伊奈利山まで舞い戻っていた。
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