132 / 159
ほんもののつがい、にせもののつがい 27
しおりを挟む
『どうやら、無理やり一件落着したようではあるが……結局、思い出せぬままか』
金色の瞳でじろっと睨まれて、楓はしょんぼりと肩を落とした。
『そ、それは……』
『しかも、尻尾を一本失くすとは。何をやっておるのだ、ばかもの』
『う……』
『それに……よそ者に好き勝手に食い散らかされるところだったなど……伊奈利山の狐の名折れ。修行がまったく足りぬ! 右近左近! おまえたちが付いていながら、なんじゃこの体たらくはっ! 狼などという野蛮な獣に後れを取るとはっ!』
バリバリと空気を震わせる葛葉の怒声に耳も尻尾も折り畳み、小さくなって蹲る楓の横で右近左近も小さくなっている。
『ごめんなさい、葛葉さま』
『申し訳ありません、葛葉さま』
バシンバシンと九つの尾が地割れを引き起こしそうな勢いで地面に叩きつけられるたび、強面の男たちがビクンビクンと飛び上がる。
しかし、さすがは秋弦だ。
妖に慣れているからか、少しも怯えることなく葛葉に面と向かって名乗った。
「申し遅れたが、照葉の国主、柊総一朗秋弦と申す。伊奈利山の葛葉殿とお見受けした。十年前の礼もしておらぬうちから、何を言うかと思われるかもしれないが……その、楓のことで頼みがある」
『ふん。浮気ものの小僧が何の用じゃ』
「う、浮気では……あれは、違う。子種は楓のほかには撒いていない。これからも、そのつもりはない」
秋弦は強張った表情で、更姫とは浮気していないと言い張ったが、つい楓は葛葉共々疑いの目を向けてしまった。
「その……口づけを、許したのは申し訳ないと思っているが、望んでしたわけではなく……その、だから……私がそうしたいと思うのは、私がつがいになりたいと思うのは、楓だけだ。楓がいなくなるかと思うと、夜も眠れぬし……先ほども、楓が死んでしまうかと思って、肝が冷えた。楓を助けたいと思うあまり、真神とやらを引きずり降ろすほど、大事に思っている。だから……葛葉殿、楓を……私の、嫁に……くれぬか」
秋弦は額に滲む汗を拭い、葛葉が放つ圧に負けずに金の瞳から目を逸らすことなく、しどろもどろになりながらも訴えた。
――嫁! 秋弦さまの嫁! それは人間のつがいになること! 角右衛門さまが言っていたように、嫁入りできるっ!
金色の瞳でじろっと睨まれて、楓はしょんぼりと肩を落とした。
『そ、それは……』
『しかも、尻尾を一本失くすとは。何をやっておるのだ、ばかもの』
『う……』
『それに……よそ者に好き勝手に食い散らかされるところだったなど……伊奈利山の狐の名折れ。修行がまったく足りぬ! 右近左近! おまえたちが付いていながら、なんじゃこの体たらくはっ! 狼などという野蛮な獣に後れを取るとはっ!』
バリバリと空気を震わせる葛葉の怒声に耳も尻尾も折り畳み、小さくなって蹲る楓の横で右近左近も小さくなっている。
『ごめんなさい、葛葉さま』
『申し訳ありません、葛葉さま』
バシンバシンと九つの尾が地割れを引き起こしそうな勢いで地面に叩きつけられるたび、強面の男たちがビクンビクンと飛び上がる。
しかし、さすがは秋弦だ。
妖に慣れているからか、少しも怯えることなく葛葉に面と向かって名乗った。
「申し遅れたが、照葉の国主、柊総一朗秋弦と申す。伊奈利山の葛葉殿とお見受けした。十年前の礼もしておらぬうちから、何を言うかと思われるかもしれないが……その、楓のことで頼みがある」
『ふん。浮気ものの小僧が何の用じゃ』
「う、浮気では……あれは、違う。子種は楓のほかには撒いていない。これからも、そのつもりはない」
秋弦は強張った表情で、更姫とは浮気していないと言い張ったが、つい楓は葛葉共々疑いの目を向けてしまった。
「その……口づけを、許したのは申し訳ないと思っているが、望んでしたわけではなく……その、だから……私がそうしたいと思うのは、私がつがいになりたいと思うのは、楓だけだ。楓がいなくなるかと思うと、夜も眠れぬし……先ほども、楓が死んでしまうかと思って、肝が冷えた。楓を助けたいと思うあまり、真神とやらを引きずり降ろすほど、大事に思っている。だから……葛葉殿、楓を……私の、嫁に……くれぬか」
秋弦は額に滲む汗を拭い、葛葉が放つ圧に負けずに金の瞳から目を逸らすことなく、しどろもどろになりながらも訴えた。
――嫁! 秋弦さまの嫁! それは人間のつがいになること! 角右衛門さまが言っていたように、嫁入りできるっ!
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる