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ほんもののつがい、にせもののつがい 24
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次々と襲い掛かる狼を尾で叩き落とし、首根っこに噛みついて、振り回し、放り投げる。
角右衛門や春之助、秋弦たちも刀を振り回して狼たちを薙ぎ払い、屋根の上から矢が降り、乾いた音を立てる火縄銃が煙を上げている。
境内のあちらこちらに横たわる狼たちの数は不思議なことに増えることもなく、減ることもない。
まるで、現世と常夜の狭間で起きているような……。
いつになったら終わるのだろうかと思い始めた楓は、りぃんという鈴の音を聞いたような気がした。
ピンと耳を立て、音がした方を振り返ると更姫の背後から襲いかかる狼を秋弦が一刀両断にするのが見えた。
目配せし合い、笑みを交わす二人は息もぴったり合っていて、お似合いだ。
そんな二人の姿を見た楓は、ふつふつと煮えたぎっていた怒りや嫉妬などのドロドロしたものが冷えて固まるのを感じた。
――やっぱり、邪魔なのかも……。
尻尾を落として俯きかけた楓は、ふと崩れかけた築地塀の上にきらりと光るものを見た。
それが矢尻の光で、狙いの先にはそちらに背を向けている秋弦がいると気付いたときには、勝手に足が動いていた。
『秋弦さまっ』
とにかく秋弦を助けなくてはと、飛び掛かるようにして、力いっぱいその背を押し倒した。
鋭いもので肩を切り裂かれるような痛みが走り、そのまま倒れそうになったが、矢羽が風を切る音を耳にして素早く起き上がり、間一髪のところで飛来した矢を咥える。
「楓っ!?」
折れた矢を吐き出して、その矢尻が黒々としたもので濡れているのを見た楓は、それが良からぬものだと気が付いた。
「楓っ!」
足に力が入らず、そのまま地面に倒れた楓は、次の矢から秋弦を守らなくてはと起き上がろうとしたが、きゅうっと喉が締まり、息ができず、目の前が霞む。
「秋弦、危ないっ!」
更姫の悲鳴のような声が聞こえ、別の方向から放たれた矢の前に身体を投げ出すようにして秋弦に伸し掛かるのが精一杯だった。
深々とわき腹に刺さった矢は、先ほどの矢の二倍はあろうかと言う太さだ。
燃え盛る薪を押し当てられたような痛みが走るも、悲鳴を上げることさえできなかった。
「……かえで……楓っ!」
『さわらないで……秋弦さま……』
強く押し退けたいのに、ちっとも力が入らず、秋弦の手に鼻先を押し当てるだけになってしまう。
「秋弦、立てっ! 次が……楓をあちらへ……」
更姫が腕を取って立たせ、楓を抱えようとするのに、秋弦は唸り声を上げて逆らった。
「楓に、触るなっ!」
駄目だと言っているのに、秋弦は楓を抱きかかえて放そうとしない。
その合間にも、矢が降って来て更姫が必死に剣で薙ぎ払う。
『秋弦さま、早く逃げないと……』
更姫まで傷ついては大変だ。
秋弦のつがいなのだからと、ぐいっとその身体を押しやろうとすれば、山を震わせる咆哮が響き渡った。
楓を抱いていた秋弦の姿が見る見るうちに金色の狼へと変わる。
子牛ほどもある大きさの金狼は、唸りをあげて一足で崩れた築地塀の上にいた男に食らいつき、引きずり下ろした。
ひと噛みで首の骨を砕かれた男は狼へと一瞬変化し、そのまま煙となって消えた。
「……なっ」
茫然と呟く更姫が無防備になっているのを見て、朱理が駆け寄る。
「戦いの最中に、呆けている場合かっ!」
慌てて剣を構えた更姫は、憤然として朱理に食ってかかる。
「私に嘘を教えたのかっ!? 死ななくては、真神は降りないと言っただろうっ!」
角右衛門や春之助、秋弦たちも刀を振り回して狼たちを薙ぎ払い、屋根の上から矢が降り、乾いた音を立てる火縄銃が煙を上げている。
境内のあちらこちらに横たわる狼たちの数は不思議なことに増えることもなく、減ることもない。
まるで、現世と常夜の狭間で起きているような……。
いつになったら終わるのだろうかと思い始めた楓は、りぃんという鈴の音を聞いたような気がした。
ピンと耳を立て、音がした方を振り返ると更姫の背後から襲いかかる狼を秋弦が一刀両断にするのが見えた。
目配せし合い、笑みを交わす二人は息もぴったり合っていて、お似合いだ。
そんな二人の姿を見た楓は、ふつふつと煮えたぎっていた怒りや嫉妬などのドロドロしたものが冷えて固まるのを感じた。
――やっぱり、邪魔なのかも……。
尻尾を落として俯きかけた楓は、ふと崩れかけた築地塀の上にきらりと光るものを見た。
それが矢尻の光で、狙いの先にはそちらに背を向けている秋弦がいると気付いたときには、勝手に足が動いていた。
『秋弦さまっ』
とにかく秋弦を助けなくてはと、飛び掛かるようにして、力いっぱいその背を押し倒した。
鋭いもので肩を切り裂かれるような痛みが走り、そのまま倒れそうになったが、矢羽が風を切る音を耳にして素早く起き上がり、間一髪のところで飛来した矢を咥える。
「楓っ!?」
折れた矢を吐き出して、その矢尻が黒々としたもので濡れているのを見た楓は、それが良からぬものだと気が付いた。
「楓っ!」
足に力が入らず、そのまま地面に倒れた楓は、次の矢から秋弦を守らなくてはと起き上がろうとしたが、きゅうっと喉が締まり、息ができず、目の前が霞む。
「秋弦、危ないっ!」
更姫の悲鳴のような声が聞こえ、別の方向から放たれた矢の前に身体を投げ出すようにして秋弦に伸し掛かるのが精一杯だった。
深々とわき腹に刺さった矢は、先ほどの矢の二倍はあろうかと言う太さだ。
燃え盛る薪を押し当てられたような痛みが走るも、悲鳴を上げることさえできなかった。
「……かえで……楓っ!」
『さわらないで……秋弦さま……』
強く押し退けたいのに、ちっとも力が入らず、秋弦の手に鼻先を押し当てるだけになってしまう。
「秋弦、立てっ! 次が……楓をあちらへ……」
更姫が腕を取って立たせ、楓を抱えようとするのに、秋弦は唸り声を上げて逆らった。
「楓に、触るなっ!」
駄目だと言っているのに、秋弦は楓を抱きかかえて放そうとしない。
その合間にも、矢が降って来て更姫が必死に剣で薙ぎ払う。
『秋弦さま、早く逃げないと……』
更姫まで傷ついては大変だ。
秋弦のつがいなのだからと、ぐいっとその身体を押しやろうとすれば、山を震わせる咆哮が響き渡った。
楓を抱いていた秋弦の姿が見る見るうちに金色の狼へと変わる。
子牛ほどもある大きさの金狼は、唸りをあげて一足で崩れた築地塀の上にいた男に食らいつき、引きずり下ろした。
ひと噛みで首の骨を砕かれた男は狼へと一瞬変化し、そのまま煙となって消えた。
「……なっ」
茫然と呟く更姫が無防備になっているのを見て、朱理が駆け寄る。
「戦いの最中に、呆けている場合かっ!」
慌てて剣を構えた更姫は、憤然として朱理に食ってかかる。
「私に嘘を教えたのかっ!? 死ななくては、真神は降りないと言っただろうっ!」
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