キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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ほんもののつがい、にせもののつがい 23

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「角右衛門……城で待てと言っただろう?」

 秋弦は角右衛門を見て眉根を寄せたが、その足元にいる楓を見ると目を見開いた。

「楓っ」

 思わず、といった様子で歩み寄ろうとした秋弦の前に立ちはだかったのは、角右衛門だ。

「殿の命に反して駆けつけたことについては、お叱りを受ける覚悟でございまする。しかしながら、不実な行いで楓殿を悲しまるなど……照葉の国主ともあろうものが、女子の色香に惑わされて浮気するなど、嘆かわしいっ!」

 憤然と言い放った後、目頭を押さえる角右衛門に秋弦は「いや。それは誤解……」と言い訳しようとしたが、ぴしゃりとやり込められる。

「今は火急の事態ゆえ、後ほどじっくりたっぷりと説教いたしましょうぞ! おぬしら、何をぼけっとしておる! とっとと犬っころどもを片付けんかっ!」

 眦を吊り上げた角右衛門に怒鳴りつけられた者たちは、くるりと山門へ向き直り、各々武器を構え直す。

 楓は、秋弦の横で「ふふん」と勝ち誇った笑みを浮かべる更姫を噛み殺したい気持ちでいっぱいだったが、ささっと駆け寄った右近と左近に左右から挟まれた。

『楓。さっさと狼たちを片付けよう』
『お殿さまとゆっくり話し合いするにも邪魔ものは片付けないと』 
『あれも、片付けていい?』

 楓の視線の先に更姫を見た右近と左近は、顔を見合わせた。

『あれは、やめておいたほうがいいんじゃないかな』
『狐と狼だと、狼のほうが強いからね』

 楓が牙を剥き出しにして唸ると、右近と左近は二人がかりで引き止めた。

『まずは、悪者を片付けようか』
『まずは、楓が強いってところ見せつけようよ』

 間近に迫る唸り声に振り返ると、山門に押し寄せる狼の群れが見えた。

『思う存分、怒り狂っていいからね!』
『あいつらをお殿さまだと思ってやっちゃっていいからね!』

 どん、と右近と左近に押された楓はくるりと一回転し、目の前に迫った狼を四本の尾で叩き落とした。

 吹き飛んだ狼が、岩肌にめり込んで失神するのを見て、昨日からモヤモヤと胸の奥でわだかまっていたものが幾分すっきりした。

 ――これ、いいかも。
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