キツネつきのお殿さま

唯純 楽

文字の大きさ
上 下
127 / 159

ほんもののつがい、にせもののつがい 22

しおりを挟む
 洗いざらい秋弦の浮気について角右衛門に話してしまった楓は、一晩木こり小屋で過ごした後、再び山を登っていた。

 急勾配の山を天狗のような勢いで飛ぶように登っていく男たちに、楓はすっかり感心してしまったが、角右衛門も負けてはいなかった。

「照葉の武士は、十分足腰を鍛えるために山歩きもするのだ」

 腰を痛めてなければ、もう少し早く歩けるという角右衛門も楓にしてみればまるで平地を歩くかのごとく、スタスタと登っているように見える。

『さすが、角右衛門さまです』

「うん? 褒めてくれたのか?」

 角右衛門がでれっと相貌を崩す。

 すっかり打ち解けたせいか、狐姿の楓の言うこともわかるようになったらしい。

『はい』

「まだまだ、殿を野放しにはしておけんからな」

 養育係として、秋弦が妻を貰い、無事に子をなしてからでなくては引退できぬという角右衛門は、今回の浮気騒動もさっさ祝言をあげるように自分が言うべきだったと反省しているらしい。

 城へ戻り次第、嫁を迎える支度を万事整えるつもりだと宣言している。「殿に任せておいては、何年先になるかわからぬ」と言う。

 あっという間に山門まであと一里ほどまで来たところで、森の中に狼の遠吠えが響き渡った。

「来たな」

 角右衛門は歩を早めていつでも刀を抜けるように鯉口を切り、辺りを窺いながら長く伸びていた隊列を縮めろと指示する。

 二列になって左右を確かめながら進んでいると、茂みが揺れ、黒い狼が飛び出して来た。

「山門まで走れっ!」

 次々と飛び掛かって来る狼たちを斬り捨てながら、山道を先に駆け上がったのは火縄銃を持った者たちだ。

 山門から見下ろすようにして狼たちを狙い撃ちにしていく。

 角右衛門と共に山門に辿り着いたところで、楓はあることに気が付いた。

『駄目ですっ! 違う狼です!』

 まさに矢を放とうとしていた弓手を角右衛門は慌てて止めた。

「どうした?」

『後ろから追い上げてくるのは、きっと味方です』

 狼たちは、山門目掛けて駆け上がって来るが、その後ろからそんな狼たちを追い立てるように駆けて来る銀色の狼がいた。

「ということは……寺へ追い込む気か」

 角右衛門が振り返ると、そこには更姫と春之助、そして秋弦がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

フリーの祓い屋ですが、誠に不本意ながら極道の跡取りを弟子に取ることになりました

あーもんど
キャラ文芸
腕はいいが、万年金欠の祓い屋────小鳥遊 壱成。 明るくていいやつだが、時折極道の片鱗を見せる若頭────氷室 悟史。 明らかにミスマッチな二人が、ひょんなことから師弟関係に発展!? 悪霊、神様、妖など様々な者達が織り成す怪奇現象を見事解決していく! *ゆるゆる設定です。温かい目で見守っていただけると、助かります*

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

処理中です...