123 / 159
ほんもののつがい、にせもののつがい 18
しおりを挟む
「も、貰うもの?」
「金銀財宝、油揚げなど、何でもよい。殿は、楓殿の大事なものを貰ったのだから、お礼を返すべきだろう?」
「でも……」
何かがほしくてしていたわけではない。
楓が何もいらないと首を振ると、角右衛門は優しく笑って諭した。
「何か、思い出になるものでも貰えばよい。なに、子種でもかまわん」
子種、と聞いて楓は自分が秋弦に投げつけた言葉を思い出し、青くなった。
「でも……もしかしたら……もうないかもしれません」
「は?」
「秋弦さまに、子種が枯れてしまえばいいと言ってしまいました! 私には母さまのような術は使えませんが、『言霊(ことだま)』は試したことがないので……もしかしたら……」
どういうことだと目を丸くする角右衛門に、震える唇を開いて呪いをかけてしまったのだと告白すると、周囲から息を呑む音とひそひそ囁く声が聞こえてくる。
「やばいだろ」
「子種だけがなくなるなら、別にやばくはないだろう?」
「いや、でも不能になってたら……?」
「別の相手限定ということも……」
「うわぁ、うちの奥方には絶対知られたくない……」
角右衛門は心なしかちらりと視線を下腹部に走らせたものの、怯える男たちを「情けないっ! 子種くらい、気合で何とかせんかっ!」と一喝した。
「角右衛門さま……どうしましょう……」
楓が再び泣きべそをかくと、角右衛門は「だから待て」と言う。
「更姫との件がすっきり片付くまで、待つことだ」
「……でも」
「悩むことなど何もない! 共寝してみて、子ができれば子種はあるということだ」
「でも、秋弦さまが私とは共寝したくないと言ったら……」
肝心の問題はそこなのだと楓は訴えたが、角右衛門は自信たっぷりに言い切った。
「襲えばよい。殿は、押しに弱い」
「…………」
「金銀財宝、油揚げなど、何でもよい。殿は、楓殿の大事なものを貰ったのだから、お礼を返すべきだろう?」
「でも……」
何かがほしくてしていたわけではない。
楓が何もいらないと首を振ると、角右衛門は優しく笑って諭した。
「何か、思い出になるものでも貰えばよい。なに、子種でもかまわん」
子種、と聞いて楓は自分が秋弦に投げつけた言葉を思い出し、青くなった。
「でも……もしかしたら……もうないかもしれません」
「は?」
「秋弦さまに、子種が枯れてしまえばいいと言ってしまいました! 私には母さまのような術は使えませんが、『言霊(ことだま)』は試したことがないので……もしかしたら……」
どういうことだと目を丸くする角右衛門に、震える唇を開いて呪いをかけてしまったのだと告白すると、周囲から息を呑む音とひそひそ囁く声が聞こえてくる。
「やばいだろ」
「子種だけがなくなるなら、別にやばくはないだろう?」
「いや、でも不能になってたら……?」
「別の相手限定ということも……」
「うわぁ、うちの奥方には絶対知られたくない……」
角右衛門は心なしかちらりと視線を下腹部に走らせたものの、怯える男たちを「情けないっ! 子種くらい、気合で何とかせんかっ!」と一喝した。
「角右衛門さま……どうしましょう……」
楓が再び泣きべそをかくと、角右衛門は「だから待て」と言う。
「更姫との件がすっきり片付くまで、待つことだ」
「……でも」
「悩むことなど何もない! 共寝してみて、子ができれば子種はあるということだ」
「でも、秋弦さまが私とは共寝したくないと言ったら……」
肝心の問題はそこなのだと楓は訴えたが、角右衛門は自信たっぷりに言い切った。
「襲えばよい。殿は、押しに弱い」
「…………」
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説


婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。
藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。
学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。
入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。
その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。
ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

愛してほしかった
こな
恋愛
「側室でもいいか」最愛の人にそう問われ、頷くしかなかった。
心はすり減り、期待を持つことを止めた。
──なのに、今更どういうおつもりですか?
※設定ふんわり
※何でも大丈夫な方向け
※合わない方は即ブラウザバックしてください
※指示、暴言を含むコメント、読後の苦情などはお控えください
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる