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ほんもののつがい、にせもののつがい 13
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『秋弦さまの浮気もの……』
秋弦に呪いを放った楓は、庫裏を飛び出すと境内の片隅で蹲った。
嫌な予感が当たってしまった……。
秋弦は、やっぱり狼女のほうがいいのだ。
自分は、あんな大きな乳と尻にはなれそうもない。
――伊奈利山へ帰ろう。
『楓、色々と誤解があるようだけど……』
『早まったことはしないほうがいいと思うけど……』
追いかけて来た右近左近に宥められるが、楓の心は決まっていた。
『早まったんじゃなくて、遅すぎたんだもの……』
秋弦を十年も待たせてしまった自分がいけなかったと楓は反省した。
もっと早くに秋弦の傍に駆けつけていれば、違ったかもしれない。
今となっては、もうどうすることもできないけれど……。
『それに、きっともう思い出してもらえない……仕方ないもの』
更姫と仲良くなれば、秋弦は楓のことなど考えることもなくなるだろう。
そうなったら、十年前の約束を思い出す可能性はぐんと低くなるし、思い出したところで、つがいにはなってもらえない。
『珍しく諦めるの早くない?』
『やっぱりあんなとこ見ちゃったらさぁ……』
『ものすっごい技だったね』
『あんなの楓には無理だよね』
楓は、ぐりぐりと傷口を抉って塩を塗りたくる右近左近に牙を剥き出しにして唸った。
『うるさいっ! 右近左近! 黙らないと、噛みつくからっ! う、うう……秋弦さまの女ったらし……』
きゃんきゃんと吠え立てて右近左近を蹴散らし、とぼとぼと山門へ向かって歩いていると、「楓殿!」と呼ぶ春之助の声がした。
「ちょっと待ってください、楓殿! 兄上のことは、その……大変申し訳ないと……どうやら銀嶺の国の更姫が兄上の怪我を治すために『つがい』であれば可能な方法を使ったようなのです。それで、あのような……」
春之助は、秋弦から襲ったわけではないと一生懸命説明してくれたが、楓にとってはどちらにせよ同じことだった。
自分以外に子種を注ぐ秋弦とは、つがいにはなれないし、なりたくも……ない。
「これから先も色々あるかもしれませんが、兄上は最終的には楓殿のところへ戻りますので、どうかそれまで辛抱してはくれませんか」
秋弦に呪いを放った楓は、庫裏を飛び出すと境内の片隅で蹲った。
嫌な予感が当たってしまった……。
秋弦は、やっぱり狼女のほうがいいのだ。
自分は、あんな大きな乳と尻にはなれそうもない。
――伊奈利山へ帰ろう。
『楓、色々と誤解があるようだけど……』
『早まったことはしないほうがいいと思うけど……』
追いかけて来た右近左近に宥められるが、楓の心は決まっていた。
『早まったんじゃなくて、遅すぎたんだもの……』
秋弦を十年も待たせてしまった自分がいけなかったと楓は反省した。
もっと早くに秋弦の傍に駆けつけていれば、違ったかもしれない。
今となっては、もうどうすることもできないけれど……。
『それに、きっともう思い出してもらえない……仕方ないもの』
更姫と仲良くなれば、秋弦は楓のことなど考えることもなくなるだろう。
そうなったら、十年前の約束を思い出す可能性はぐんと低くなるし、思い出したところで、つがいにはなってもらえない。
『珍しく諦めるの早くない?』
『やっぱりあんなとこ見ちゃったらさぁ……』
『ものすっごい技だったね』
『あんなの楓には無理だよね』
楓は、ぐりぐりと傷口を抉って塩を塗りたくる右近左近に牙を剥き出しにして唸った。
『うるさいっ! 右近左近! 黙らないと、噛みつくからっ! う、うう……秋弦さまの女ったらし……』
きゃんきゃんと吠え立てて右近左近を蹴散らし、とぼとぼと山門へ向かって歩いていると、「楓殿!」と呼ぶ春之助の声がした。
「ちょっと待ってください、楓殿! 兄上のことは、その……大変申し訳ないと……どうやら銀嶺の国の更姫が兄上の怪我を治すために『つがい』であれば可能な方法を使ったようなのです。それで、あのような……」
春之助は、秋弦から襲ったわけではないと一生懸命説明してくれたが、楓にとってはどちらにせよ同じことだった。
自分以外に子種を注ぐ秋弦とは、つがいにはなれないし、なりたくも……ない。
「これから先も色々あるかもしれませんが、兄上は最終的には楓殿のところへ戻りますので、どうかそれまで辛抱してはくれませんか」
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