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ほんもののつがい、にせもののつがい 12
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「……何も知らぬくせに、いっぱしの口をきく」
銀嶺の国に、更姫に、真神に従う必要などない。
秋弦は、照葉の人間だ。
「楓と共にいるならば、私は強くあれる。だが、あなたと共にいれば、楽な方へ逃げることを覚え、堕落してしまうだろう。私は弱い人間だからな」
更姫と話している間に、秋弦は自分の中でもはっきりとしていなかった楓との未来が少しずつ形になるのを感じた。
新たに作り出したというよりも、そこにずっとあっていろんな覆いで隠されていたものをようやく取り出せたというように。
「なるほど……最善の手を断ると。ならば、次の手を考えなくてはならないだろうな? 朱理」
更姫は目を眇めて秋弦を見据え、朱理に問う。
「ええ。少々強引ですが、根絶やしにするしかないでしょう」
「根絶やし……?」
「この山にいるヤツラは、一匹残らず始末する。その上で、あなたは実は真神の器ではなかったと朱理が国元の神殿に報告する」
「つまり、朱理殿は裏切り者ということか」
神殿ではなく、更姫に従うというのならば、朱理の主は真神ですらない。
秋弦の言葉に更姫はそうだとも違うとも言わず、ただうっすらと笑った。
「口封じをするならば、完璧でなくては意味がないし、完璧であったかどうかを確かめる存在が必要だ」
冷ややかな声で告げる更姫に、秋弦も同感ではあったがこの人数ではあの狼の群れを葬り去るのは無理だろうと顔をしかめた。
すると、更姫が再び何か企んでいるに違いない、黒い笑みを浮かべる。
「そちらの援軍が到着するのを待つ。その間、私とあなたは巣に籠ってせっせと子作りをしていることにするのだ。私からヤツラに、あなたを取り込むことに成功したと伝える。頃合いを見計らって、あなたを殺害することを約束すればその気になるだろう。もちろん白狐には内緒だ」
「いや、しかし……」
楓が納得するはずがないと秋弦が難色を示すと、春之助が大丈夫だと請け合った。
「楓殿には言い聞かせます」
「いや、待て、しかしだな……」
「そうこうしている間に、楓殿は兄上に愛想を尽かすかもしれませんが、あんな現場を見られたのですから、仕方ないでしょう」
あっさり諦めろと言う春之助に、秋弦は思わず掴みかかりそうになった。
「仕方なくないっ!」
「ああいった場合、三行半を突き付けられても文句は言えないのですよ? 兄上」
三行半どころか呪われたとはとても言えず、秋弦は唇を引き結んだ。
「敵を欺くには、まず味方からと言います。楓殿は兄上以上に、嘘や謀が苦手でしょうから」
確かに、楓は思っていることが顔や耳や尻尾に出てしまう。
しかし、楓に嫌われると思うと、秋弦は体の芯から凍り付きそうな心地になった。
「あと三日。楽しい化かし合いの始まりだ!」
心の底から楽しそうな更姫に、秋弦は少しも楽しくないと声を大にして言いたかったが、何を言っても無駄だろうと項垂れた。
銀嶺の国に、更姫に、真神に従う必要などない。
秋弦は、照葉の人間だ。
「楓と共にいるならば、私は強くあれる。だが、あなたと共にいれば、楽な方へ逃げることを覚え、堕落してしまうだろう。私は弱い人間だからな」
更姫と話している間に、秋弦は自分の中でもはっきりとしていなかった楓との未来が少しずつ形になるのを感じた。
新たに作り出したというよりも、そこにずっとあっていろんな覆いで隠されていたものをようやく取り出せたというように。
「なるほど……最善の手を断ると。ならば、次の手を考えなくてはならないだろうな? 朱理」
更姫は目を眇めて秋弦を見据え、朱理に問う。
「ええ。少々強引ですが、根絶やしにするしかないでしょう」
「根絶やし……?」
「この山にいるヤツラは、一匹残らず始末する。その上で、あなたは実は真神の器ではなかったと朱理が国元の神殿に報告する」
「つまり、朱理殿は裏切り者ということか」
神殿ではなく、更姫に従うというのならば、朱理の主は真神ですらない。
秋弦の言葉に更姫はそうだとも違うとも言わず、ただうっすらと笑った。
「口封じをするならば、完璧でなくては意味がないし、完璧であったかどうかを確かめる存在が必要だ」
冷ややかな声で告げる更姫に、秋弦も同感ではあったがこの人数ではあの狼の群れを葬り去るのは無理だろうと顔をしかめた。
すると、更姫が再び何か企んでいるに違いない、黒い笑みを浮かべる。
「そちらの援軍が到着するのを待つ。その間、私とあなたは巣に籠ってせっせと子作りをしていることにするのだ。私からヤツラに、あなたを取り込むことに成功したと伝える。頃合いを見計らって、あなたを殺害することを約束すればその気になるだろう。もちろん白狐には内緒だ」
「いや、しかし……」
楓が納得するはずがないと秋弦が難色を示すと、春之助が大丈夫だと請け合った。
「楓殿には言い聞かせます」
「いや、待て、しかしだな……」
「そうこうしている間に、楓殿は兄上に愛想を尽かすかもしれませんが、あんな現場を見られたのですから、仕方ないでしょう」
あっさり諦めろと言う春之助に、秋弦は思わず掴みかかりそうになった。
「仕方なくないっ!」
「ああいった場合、三行半を突き付けられても文句は言えないのですよ? 兄上」
三行半どころか呪われたとはとても言えず、秋弦は唇を引き結んだ。
「敵を欺くには、まず味方からと言います。楓殿は兄上以上に、嘘や謀が苦手でしょうから」
確かに、楓は思っていることが顔や耳や尻尾に出てしまう。
しかし、楓に嫌われると思うと、秋弦は体の芯から凍り付きそうな心地になった。
「あと三日。楽しい化かし合いの始まりだ!」
心の底から楽しそうな更姫に、秋弦は少しも楽しくないと声を大にして言いたかったが、何を言っても無駄だろうと項垂れた。
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