キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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ほんもののつがい、にせもののつがい 10

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 更姫の話は、いきなり信じられるようなものではなかったが、人が都合のいい力を欲し、国や民の行く末よりも己自身の行く末だけを考えて愚かな真似をするのだということは、理解できた。

「それでも、ヤツラは都合のいい力を求めて愚かな真似を繰り返す。愚かな人間が力を持てば、あっという間に国が滅ぶ。これまで、滅びずに済んだのは運が良かったからだ。しかし、金剛の国が虎視眈々と狙っている今、迂闊な真似はすべきではない。だから……いくつか手を考えた」

 にっこり笑う更姫に、嫌な予感しかしない。

 秋弦は何となく視線をさまよわせたが、聞かずに済むはずもなかった。

「まずは、私とあなたが夫婦になれば、私があなたの国で直接あなたを守ることができる。自分で言うのもなんだが、私は腕が立つ。もちろん、妖術も使える。さらには、この朱理も連れて行くから、完璧な護衛になるだろう」

「いや、その……守ってくれようとするのはありがたいが……だが、それでは何も解決しないだろう? 私を守るくらいなら、そちらの国の狂信者たちをどうにかしてくれ」

 そもそも、秋弦を狙うヤツラをどうにかしなくては、命の危機はいつまでも続くと秋弦が指摘すると、更姫はにやりと笑う。

「夫婦にならないと、閨であなたを守れないだろう? それに……ヤツラが慌てているのは、あの白狐とつがいになられては次の真神の器が生まれないかもしれないと考えているせいだ。私との子であれば、次の器となる可能性はぐんと上がる」

「だが、先ほど必ず生まれるわけではないと言ったではないか」

「それはそうだが、狐と狼の混血よりは確率が高い」

「そもそも、真に脅威を取り除きたいのなら、いたずらに器を作らぬほうがいいのではないか?」

 真神の器が生まれぬほうが、面倒は少なくて済む。

 だから、自分と更姫が夫婦になって子作りをする必要などないはずだと言えば、更姫は天を仰いで唸った。

「うーん。意外と手強い……ここは正攻法でいくか」

 パシっと手で膝を打つなり、豪快に茶を呑み干して、ずいっと秋弦ににじり寄った。

「神殿や真神の器などの話は別として、『つがい』になってほしいのだが? ひと目惚れした」
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