キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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ほんもののつがい、にせもののつがい 9

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 他の神というのは、楓のことを指すのだろう。
 溜息を吐いた更姫は、首を傾げて秋弦を見つめる。

「なぁ、秋弦殿。真神まかみが、本当にひとりの人間に降りると思うか?」

 更姫の言わんとしていることがわからず、秋弦は瞬きした。

「銀嶺の国では、こちらで言う神通力……まぁ、妖術のようなものを使える者が多い。真神に仕える神官でなくては使えないということになっているが、実際は違う。真神は、神官に限らず、我が国の民の誰に対してもその力をお与えになっている。私もその一人だし、度合は違うがあなたも似たようなものだ、秋弦殿。我が身に真神の一部を飼っている、と言うのが一番近いかもしれないな。だから、狼の本性を携えているのだ」

 だから、まさに狼の眷属であり人の姿があくまでも仮である神使とはまた少し違うと言われ、秋弦はわかったようなわからないような、なんとも奇妙な心地で頷いた。

「つまり……銀嶺の国では、多くの者に真神が少しずつ降りているということになる。それはなぜかということを考えれば、神を降ろすための器がわざわざ必要だなんてことにはならないはずだ」

「つまり……私が必要だと思っているのは、その神官たちだけということか?」

「そうだ。我が国主の意思ではない」

 きっぱりと言い切った更姫に、秋弦は信じていいものかどうか迷った。

 しかし、秋弦の命を助けたのは間違いなく更姫だ。

 真神となった秋弦が欲しいのならば、あのまま死なせてしまえばよかっただろう。

「銀嶺の国には、これまで真神の器と呼ばれる赤子が幾人か生まれている。ただし、どれも真神を降ろした後は短命だ。人の器はあくまでも人のもの。神が使うにはいささか頑丈さに欠けるのだ」

 更姫は「神官たちは神を使い捨ての駒にしている」と嘲った。

「真神を降ろした神官は、圧政を敷くようなことはないが、求められるままに力をふるう。人が都合のいい力に慣れるには、三日もあれば十分だ。神殿のヤツラは、次の真神の器を用意するのに躍起になって、国中の女を差し出させる。無理やり巫女にして、伽をさせる。真神の神官と交わったからといって、必ずしも器となる赤子が生まれるとは限らないのに。秋弦殿が、その何よりの証拠だ」
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