キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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ほんもののつがい、にせもののつがい 8

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 朱理が掃除したのか、埃を払われたこぢんまりした一室に腰を落ち着けた秋弦は、腕を組んだまま差し出された茶を見下ろした。

 まだ、出されたものを口にできるほどは、信用していなかった。

「さて……さっさと面倒事は片付けて、つがおうではないか」

 にこやかに更姫が宣言するが、秋弦は沈黙を返した。

 そのつもりはさらさらないが、先ほど楓が放った渾身の呪いにより、とてもつがえる気がしない。

「つがい云々よりもまず、どうして我が殿が襲われたのかをご説明いただきたいのですが?」

 春之助のツッコミに、更姫はにやりと笑う。

「五日後と約束したのに、早く来たからだ。曲者かと思ってな」

 絶対に嘘だ、と春之助が睨み返すとカラカラと笑う。

「でも、そのおかげでヤツラの首根っこを押さえつけることができた」

「ヤツラ、と言うからにはあの野良犬と更姫様は一緒ではないと?」

「ああ、そうだ。今回縁談を持ち掛けたのは、確かに真神の神官共の入れ知恵だが、私の目的はヤツラとは違う」

「違う、とは?」

「真神の器をヤツラに渡すつもりはないということだ」

 更姫の言葉に、秋弦は組んでいた腕を解いた。

 そんな話をこんなところでしていいのかと辺りを窺うように視線を巡らせれば、更姫は「朱理が結界を張っている。この部屋の外には一切聞こえぬ」と断言した。

 その言葉に引っかかるものを感じて、秋弦は首を捻った。

「先ほど、私を迷い込ませたのも同じような仕組みだとすれば……あなたがやったのか?」

 狼に襲わせたのも故意だったのではないかと秋弦が睨めば、更姫はにやりと笑う。

「秋弦殿ひとりを呼び出したいとは思っていたが、野良犬たちが襲うところまでは計算外だ」

 それも本当かどうか疑わしいとは思ったが、いくら追及したところで真実を話すとも思えず、それ以上問い詰めることは諦めて、先を促した。

「我が父……銀嶺の国主は、以前より神官共の増長が過ぎるとお考えでな。他国の世継ぎにまで手を出すなど行き過ぎだと、五年前に厳しく戒めた。金剛の国も力を増している今、無用の争いをしていられるほど我が国に余裕はないからな。しばらくは、ヤツラも大人しくしていたのだが、素晴らしい器がみすみす他の神のものになると知って、再び良からぬことを考え始めた」
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