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ほんもののつがい、にせもののつがい 7
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衝撃的なひと言を残して、あっという間に消えた白狐を見送った秋弦は、ごくりと唾を呑み込んで己の下半身を見下ろした。
先ほどまで、実に危うい状態だったが、今はすっかり治まっている。
お狐さまの呪いは、かなり効き目がありそうだ。
秋弦は、はぁと溜息を吐いて顔を覆った。
狼たちに襲われた秋弦は、更姫と朱理に助けられたがかなりの傷を負っていた。
こんな山奥で、まともな医者もいない状態では命も危うい状態だった。
しかし、この山寺に秋弦を運び込んだ更姫は自分なら秋弦の傷を治せると言い出した。
つがい同士であれば、交わるだけで力を分け合える。さすがに死にそうな状態では無理だから口づけでよいと言い、秋弦の返事も待たずにいきなり襲い掛かった。
抵抗しようとしたが、更姫は鍛え上げた武士並みに腕力が強く、弱った秋弦はなされるがまま、受け入れるしかなかった。
しかも……更姫との口づけは麻薬のように秋弦の思考と判断力を奪った。
理性では到底押し止めることができない、強力な磁力で引き寄せられた。
それこそが『つがい』の証だと言う更姫に反論するための根拠を秋弦は持っていなかった。
ただ、頭の片隅では常に何かが警鐘を鳴らしていた。
何かがおかしいと、流されるままに快楽に溺れてはいけないと、訴えるものがあった。
更姫が服を脱ぎ捨て、秋弦の身体をまさぐる間も、雄としての本能は正しく反応していたが、秋弦の心はどこか別の遠い場所にあり、必死に自分の身体を取り戻そうとしていた。
それでも更姫の力には抗いきれず、もう駄目かと思ったとき、楓の声がしてようやくある程度の自由を取り戻したのだ。
しかし……あんな状況を目撃されるなど、最悪だ。
交わってはいないが、口づけを……しかも、慎ましとは言い難い口づけを受け入れているように見えただろう。
いくら浮気していないと言おうとも、信じてもらえそうにない。
「兄上。浮気の言い訳については、後で一緒に考えて差し上げますので、今はこちらへ」
春之助の冷ややかな眼差しに、秋弦は「やってないんだ!」と叫びたくなった。
楓に許してもらうには、角右衛門や寺社奉行の言葉どおりに、平身低頭、詫びの一手しかないだろう。
許してもらえなかったら……なんてことは、考えたくもない。
先ほどまで、実に危うい状態だったが、今はすっかり治まっている。
お狐さまの呪いは、かなり効き目がありそうだ。
秋弦は、はぁと溜息を吐いて顔を覆った。
狼たちに襲われた秋弦は、更姫と朱理に助けられたがかなりの傷を負っていた。
こんな山奥で、まともな医者もいない状態では命も危うい状態だった。
しかし、この山寺に秋弦を運び込んだ更姫は自分なら秋弦の傷を治せると言い出した。
つがい同士であれば、交わるだけで力を分け合える。さすがに死にそうな状態では無理だから口づけでよいと言い、秋弦の返事も待たずにいきなり襲い掛かった。
抵抗しようとしたが、更姫は鍛え上げた武士並みに腕力が強く、弱った秋弦はなされるがまま、受け入れるしかなかった。
しかも……更姫との口づけは麻薬のように秋弦の思考と判断力を奪った。
理性では到底押し止めることができない、強力な磁力で引き寄せられた。
それこそが『つがい』の証だと言う更姫に反論するための根拠を秋弦は持っていなかった。
ただ、頭の片隅では常に何かが警鐘を鳴らしていた。
何かがおかしいと、流されるままに快楽に溺れてはいけないと、訴えるものがあった。
更姫が服を脱ぎ捨て、秋弦の身体をまさぐる間も、雄としての本能は正しく反応していたが、秋弦の心はどこか別の遠い場所にあり、必死に自分の身体を取り戻そうとしていた。
それでも更姫の力には抗いきれず、もう駄目かと思ったとき、楓の声がしてようやくある程度の自由を取り戻したのだ。
しかし……あんな状況を目撃されるなど、最悪だ。
交わってはいないが、口づけを……しかも、慎ましとは言い難い口づけを受け入れているように見えただろう。
いくら浮気していないと言おうとも、信じてもらえそうにない。
「兄上。浮気の言い訳については、後で一緒に考えて差し上げますので、今はこちらへ」
春之助の冷ややかな眼差しに、秋弦は「やってないんだ!」と叫びたくなった。
楓に許してもらうには、角右衛門や寺社奉行の言葉どおりに、平身低頭、詫びの一手しかないだろう。
許してもらえなかったら……なんてことは、考えたくもない。
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