キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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ほんもののつがい、にせもののつがい 6

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「兄上、一体……っ! し、失礼」

 楓の背後から覗き込んだ春之助が慌てて背を向けると、朱理が畳の上に落ちていたものを更姫に投げつけた。

「姫。まずは、説明を。つがうのは、後にしてください」

「まったく野暮な男だな、朱理は。ようやく見つかったというのに……」

「用は半分しか済んでいません。きちんと完遂させること。それが、今回手を貸した条件です」

「わかった、わかった……」

 更姫が立ち上がると、たわわに実った果実のような乳房が揺れ、細い腰に滑らかな太股と肉付きのよい悩ましい曲線美が露になる。

 楓は、自分より数倍は雌として魅力的だと認めざるを得なかった。

 しかも、更姫はとても美しい。
 真っ白い抜けるような肌も、金茶色の大きな瞳も、金の髪と長い睫毛もすべてが秋弦と同じく眩しく輝いている。

 秋弦の視線は、服を纏う更姫から離れない。

 楓は、耐えきれずに俯いた。

 パタリと尻尾が垂れ落ちる。

『か、楓……お殿さまはちょっと今、普通じゃないんだよ』
『そうそう、ちょっと発情期っていうかね……』

『狼のつがいって、狐とは違ってものすごぉく肉食でね……』
『相手も一人だけだから、すんごい執着心でね……』

 右近左近の慰めは、楓の傷を抉るだけだった。

「場所を移しましょう。もてなすには程遠いですが、茶くらいは用意できますので」

 朱理が春之助を促して、更に奥の部屋へと案内する。
 更姫が続き、秋弦は楓の前で足を止めた。

「楓……その、これは……だな……色々と、事情が……あって……つがいの意味が、こちらとあちらでは違うようで……いや、違うと言っても本質的なところは一緒なのかもしれないが……でも、と、とにかく、子種は注いでいないし、浮気では……」

 もごもごと口ごもる秋弦の言い訳は要領を得ない。

 口づけをして、素っ裸の女子に跨られて、お互いの肌をまさぐっていても浮気ではないなんて、そんなこと、狐だって言わない。

 ――これが浮気でなくて、何を浮気と言うのだっ!

「楓……」

 秋弦が伸ばした手から飛び退いた楓は、思い切り呪いの言葉を吐いて身を翻した。

『秋弦さまなんか……秋弦さまなんか、子種が枯れてしまえばいいのよぅっ!』
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