キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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ほんもののつがい、にせもののつがい 4

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「それを聞いて安心いたしました。それは……ありがとうございます。無事を確認させていただきたいのですが……朱理殿」

 春之助は異様な雰囲気を醸し出す男を知っているらしい。

 朱理、と呼ばれた男は僅かに顔をしかめたが、従者が主の無事を確かめるのは当然だと頷いた。

「……ただ、我が姫は邪魔をされるのが好きではありませんので、後でと言われるかもしれませんが、どうぞ」

 音も立てずに歩いて行く朱理の後ろに従う春之助から、更に少し離れて楓は右近左近と一塊になっていた。

『ものすごく……嫌な感じ』
『だろうね』
『天敵だしね』

 朱理からは、人間の臭いもしないし、妖とも思えない。
 つまり、神使ということだ。

 しかも、ただならぬ力を感じさせる。

『葛葉さまくらいの力の持ち主かも?』
『でも、神使って言っていいのかな?』
『どういうこと?』

 こそこそと話ながら朽ち果てた本堂の裏手へ回ると、そこには壁や屋根などがしっかりと残ったややマシな庫裏くりらしき建物がある。

 朱理以外の従者はいないのだろうかと辺りを見回した楓は、暗い木立の中に無数に光る金色の瞳に気が付いた。

『なっ……なんかいる……』

 あれが獣の臭いの原因かと目を見開く楓に、右近と左近は溜息を吐く。

『楓、気付くの遅いよ』
『すっかり狼に囲まれているんだよ』

『下手なことしたら、ガブリとやられるよ』
『数じゃ勝てないね』

「騒がなければ襲うことはない」

 まるで三匹の会話が聞こえたかのように、朱理が告げた。

「あれが、我が殿を襲った野犬だと? どう見ても、狼にしか見えませんが? 朱理殿」

 春之助の声に怒りが滲んだのを感じたのか、朱理は肩を竦めた。

「命に従えぬ者は真神の神使ではなく、ただの野良犬だ」

「つまり、命令に従わせることができなかったということでしょうか?」

「どんな国でも、一枚岩とはいかぬということだ。それは、そちらも同様では?」

 二人はしばし睨み合ったが、朱理はすっと目を逸らして廊下の突き当たりで立ち止まった。

「更姫さま。照葉の客人がいらっしゃいました」
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