キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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狼の姫君と狐の姫君 2

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 ちらりと振り返れば、楓は素知らぬ顔でいきなり毛づくろいをし始めた。

 嫌ではなかったのだから、よしとするべきだろうと秋弦は小さく息を吐いた。

「五日後の日程で返事をしたためるが、無駄に待つつもりはない。向こうの様子を確かめたい。内密に明日のうちに出立する。護衛は目立たぬよう『影』を連れて行くが、五日後に間に合うように出立するほうは、仰々しい一団にしよう。老中と大番頭を呼べ」

 できるだけ身軽な少人数で動きたいという秋弦の考えに、角右衛門は不満一杯のようだったが、重大な案件ゆえ自ら呼んで来ると言って立ち去った。

「ところで楓……」

 一緒に行くつもりはあるのかと尋ねる前に、楓が答えた。

『秋弦さまをお守りするためにも、ご一緒させてください』

 銀嶺の国が真神の神使というものを使う気ならば、楓がいてくれたほうがありがたいのは確かだ。

 秋弦には妖と話して手助けしてやることはできても、そういったものへの対処の方法を知っているわけではない。

 それに……淨春院の話が本当ならば、真神の器である自分の身に何が起きるかわからない。

「楓殿も同行されるのですよね?」

 春之助の問いに「そのつもりだ」と答えると、ならば旅支度が必要だと真顔で言う。

「旅支度?」

「毛並みを整える道具や寝床、雨が降った場合の合羽や匂い袋などが必要でしょう」

 楓が嬉しそうに尻尾をパタリと一振りするのを見て、秋弦は頷いた。

「え……あ、ああ、まぁ、そうだな」

 狐は野外で生活しているのだから不要ではないかと思ったことは、黙っておいた。

「それに、ちょうど伊奈利山も近いことですし、お参りしてはいかがでしょう? 兄上は、十年来伺っていないのでしょう?」
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