キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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思い出と策略の日々 16

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『秋弦さま?』

 いきなり硬直した秋弦を見上げる金の瞳に映っていたのは、楓を貪ることしか考えられない狼だ。

 これが「ずぶずぶ」というやつなのかもしれないと思いながら、秋弦は楓の鼻先に鼻を擦り合わせてみた。

『し、秋弦さま……?』 

 珍しく動揺しているらしい楓の耳に囁く。

「楓。狐の求愛方法について、教えてくれるか?」

 今までは、ただ自分が気持ちいいから楓の毛並みを撫でていただけだが、楓も気持ちいいほうがいいだろうし……雄として認められたいという本能がある。

『あの……鳴き交わしたり、追いかけたり、後足で立ち上がったり……鼠とか、餌を贈り物にしたりします』

「できそうなものと、そうでないものとがあるな……」

 贈り物は何とかなりそうだが、鳴き交わすと言っても難しそうだ。
 追いかけるのも、どう考えても楓に追いつけないだろう。

 あれこれ考えていると、楓はペロリと秋弦の唇を舐め、恥ずかしそうに秋弦の首筋に顔を埋めた。

『でも、その……秋弦さまに撫でられているだけで、十分そのう……気持ち良いのです。それに、私は人間の求愛方法がよいです。秋弦さまと触れ合えるほうが……好きです。そのう……交尾も、人間のほうがたくさん……』

「わ、わかった! も、もういい……楓の気持ちは、ようくわかった」

 秋弦は、これ以上聞けば間違いなく理性が崩壊すると慌てて楓を押し止めた。

――楓が火傷していなかったなら、狐のままでも襲い掛かりそうだ。

『早く、ハゲているところを治したいです……』

「早く治ってくれた方が私も嬉しいが、どんな毛並みでも、楓が美しいことに変わりはない」

『秋弦さま……お慕いしてます』

 草餅が降って来た夜には、応えられずにいたが、今は何と言うべきかわかっている。

「私も……」

 しかし、一世一代の告白はむにゅっとした肉球によって遮られた。

『秋弦さま! 火傷が、ハゲが治ってからお聞かせください!』

 口を塞がれているため「なぜだ」と目で問えば、楓は恥ずかしそうに前足で顔を覆って囁いた。

『求愛のあとは……交尾をしなくてはなりませんので……』
 
 その夜、秋弦は再び眠れぬ夜を過ごすこととなった。
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