キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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思い出と策略の日々 15

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「今夜はしっぽり過ごせそうですかい?」

 黒い雲で腕をつつかれ「邪魔が入らなければな」とつい照れ隠しにぼそっと呟く。

 甘えるように膝に頭を載せる楓を撫でると、楓は何かを思いついたかのように顔を上げた。

『そう言えば、鏡を磨かなくてはいけないのではありませんか? 秋弦さま』

「え、あ、ああ、だが……」

 昨夜磨いたばかりだから大丈夫だろうと秋弦が言うより早く、楓が雲外鏡の表面をぺろりと舐めた。

「あぁんっ」

 舐められた雲外鏡は凶悪な顔をでれっとさせて、黒雲をくねくねと動かしている。

『おいしくありませんけれど、綺麗にはなるはず……』

「舐めるんじゃないっ! 楓!」

 毛づくろいと一緒だろうと、さらに舐め回そうとする楓を慌てて引き剥がした秋弦は、うっとりした顔になっている雲外鏡をがしっと掴んだ。

「ひ、ひえぇっ! お、お殿さま、おち、落ち着いて……」

「おまえ、今……楓にもっと舐められたいと思っただろう?」

「へ? いや、その、ちょっとはおも……思ってないですぅ!」

「嘘を吐けっ! 失せろっ!」

 秋弦が力任せに放り投げると、雲外鏡は下段の奥の襖に激突する直前で消えた。

 楓は、突然秋弦が怒ったことに驚いて、首を傾げている。

『秋弦さま? あのう……ご乱心でしょうか』

「……そうだ」

 秋弦は、苛立ちまじりの溜息を吐くと楓を抱え上げ、夜着に包まった。

 銀嶺の国の真神というものや縁談のこと、これから楓をどうするかなどなど、考えなくてはいけないことは山ほどある。

 しかし、今の秋弦にとって何より大事なのは、他の男(妖を含む)に楓が触れないことだ。

 楓は、秋弦だけのものでなくてはならない。
 あらゆるところに触れるのも、触れさせるのも秋弦だけでなくてはならない。
 他のものとつがいになるなど、許せない。
 他の雄の子種を植え付けるなど……。

 そこまで考えて、沸々と煮えたぎる怒りと嫉妬で燃え上がっていた秋弦の頭が、一瞬にして冷えた。

 ――これでは、楓と同じではないか。
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