キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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思い出と策略の日々 11

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 淨春院が常に母として春之助を見守っていたのとは違い、お光は母としてではなく、巫女として秋弦を見ていたのだろう。

 この国には自分の居場所がないという孤独感から、なお一層、真神への崇拝を強めたのかもしれない。かつては、国も神も捨てて、秋弦の父と添い遂げるために照葉へ嫁ぐ決心をしたのだろうに……。

 人の心は移ろう。自ら望んで移ろうこともあるだろうが、個々ではどうすることもできない事情や時の流れが、心を変えてしまうこともあるだろう。

 自分が楓に抱く思いも、楓が自分に抱く思いも、いつか変わってしまうのだろうかと考えかけ、首を振る。

 まだ、変わることを恐れるほどの確かなものがあるわけでもないのに……。

『秋弦さま……』

 この先、楓との関係をどうすればいいのか考え込んでいた秋弦は、小さな声で呼ばれて楓の方へと顔を横向けた。

「どうした? 楓。腹が減ったか? 夕餉をまだ食べていなかったな。今から色々と作らせるのは無理かもしれないが、握り飯くらいなら何とかなるだろう」

 さっそく、春之助の代わりに控えているはずの小姓役に、何か簡単に口にできるものを持って来てくれと頼んだ。

 わざわざ誰かを呼ぶのも面倒なので、食べたらすぐに楓が眠れるようにと、自ら布団を用意する。

 楓は、じっと伏せたまま身じろぎもせずにそんな秋弦の様子を見つめていたが、ふと呟いた。

『秋弦さまは、女泣かせなのですね……』

「なにっ!?」

 聞き捨てならない見解に驚いて振り返ると、金色の瞳がじっとこちらを見つめている。

『秋弦さまはお優しいから、きっとどんな女子でも惚れてしまいます。銀嶺の国のお姫さまだって……』

 誉め言葉なのか、責め言葉なのか。
 喜んでいいのか、怒っていいのかもわからず、秋弦がうろたえていると、楓は前足で顔を覆ってさめざめと泣き始めた。

『こんな、みっともないハゲができてしまって、これでは秋弦さまと四十八手を試せません……秋弦さまをずぶずぶにできません……』

「ずぶずぶ……?」
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