91 / 159
思い出と策略の日々 11
しおりを挟む
淨春院が常に母として春之助を見守っていたのとは違い、お光は母としてではなく、巫女として秋弦を見ていたのだろう。
この国には自分の居場所がないという孤独感から、なお一層、真神への崇拝を強めたのかもしれない。かつては、国も神も捨てて、秋弦の父と添い遂げるために照葉へ嫁ぐ決心をしたのだろうに……。
人の心は移ろう。自ら望んで移ろうこともあるだろうが、個々ではどうすることもできない事情や時の流れが、心を変えてしまうこともあるだろう。
自分が楓に抱く思いも、楓が自分に抱く思いも、いつか変わってしまうのだろうかと考えかけ、首を振る。
まだ、変わることを恐れるほどの確かなものがあるわけでもないのに……。
『秋弦さま……』
この先、楓との関係をどうすればいいのか考え込んでいた秋弦は、小さな声で呼ばれて楓の方へと顔を横向けた。
「どうした? 楓。腹が減ったか? 夕餉をまだ食べていなかったな。今から色々と作らせるのは無理かもしれないが、握り飯くらいなら何とかなるだろう」
さっそく、春之助の代わりに控えているはずの小姓役に、何か簡単に口にできるものを持って来てくれと頼んだ。
わざわざ誰かを呼ぶのも面倒なので、食べたらすぐに楓が眠れるようにと、自ら布団を用意する。
楓は、じっと伏せたまま身じろぎもせずにそんな秋弦の様子を見つめていたが、ふと呟いた。
『秋弦さまは、女泣かせなのですね……』
「なにっ!?」
聞き捨てならない見解に驚いて振り返ると、金色の瞳がじっとこちらを見つめている。
『秋弦さまはお優しいから、きっとどんな女子でも惚れてしまいます。銀嶺の国のお姫さまだって……』
誉め言葉なのか、責め言葉なのか。
喜んでいいのか、怒っていいのかもわからず、秋弦がうろたえていると、楓は前足で顔を覆ってさめざめと泣き始めた。
『こんな、みっともないハゲができてしまって、これでは秋弦さまと四十八手を試せません……秋弦さまをずぶずぶにできません……』
「ずぶずぶ……?」
この国には自分の居場所がないという孤独感から、なお一層、真神への崇拝を強めたのかもしれない。かつては、国も神も捨てて、秋弦の父と添い遂げるために照葉へ嫁ぐ決心をしたのだろうに……。
人の心は移ろう。自ら望んで移ろうこともあるだろうが、個々ではどうすることもできない事情や時の流れが、心を変えてしまうこともあるだろう。
自分が楓に抱く思いも、楓が自分に抱く思いも、いつか変わってしまうのだろうかと考えかけ、首を振る。
まだ、変わることを恐れるほどの確かなものがあるわけでもないのに……。
『秋弦さま……』
この先、楓との関係をどうすればいいのか考え込んでいた秋弦は、小さな声で呼ばれて楓の方へと顔を横向けた。
「どうした? 楓。腹が減ったか? 夕餉をまだ食べていなかったな。今から色々と作らせるのは無理かもしれないが、握り飯くらいなら何とかなるだろう」
さっそく、春之助の代わりに控えているはずの小姓役に、何か簡単に口にできるものを持って来てくれと頼んだ。
わざわざ誰かを呼ぶのも面倒なので、食べたらすぐに楓が眠れるようにと、自ら布団を用意する。
楓は、じっと伏せたまま身じろぎもせずにそんな秋弦の様子を見つめていたが、ふと呟いた。
『秋弦さまは、女泣かせなのですね……』
「なにっ!?」
聞き捨てならない見解に驚いて振り返ると、金色の瞳がじっとこちらを見つめている。
『秋弦さまはお優しいから、きっとどんな女子でも惚れてしまいます。銀嶺の国のお姫さまだって……』
誉め言葉なのか、責め言葉なのか。
喜んでいいのか、怒っていいのかもわからず、秋弦がうろたえていると、楓は前足で顔を覆ってさめざめと泣き始めた。
『こんな、みっともないハゲができてしまって、これでは秋弦さまと四十八手を試せません……秋弦さまをずぶずぶにできません……』
「ずぶずぶ……?」
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
フリーの祓い屋ですが、誠に不本意ながら極道の跡取りを弟子に取ることになりました
あーもんど
キャラ文芸
腕はいいが、万年金欠の祓い屋────小鳥遊 壱成。
明るくていいやつだが、時折極道の片鱗を見せる若頭────氷室 悟史。
明らかにミスマッチな二人が、ひょんなことから師弟関係に発展!?
悪霊、神様、妖など様々な者達が織り成す怪奇現象を見事解決していく!
*ゆるゆる設定です。温かい目で見守っていただけると、助かります*

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-
七瀬菜々
恋愛
ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。
両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。
もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。
ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。
---愛されていないわけじゃない。
アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。
しかし、その願いが届くことはなかった。
アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。
かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。
アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。
ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。
アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。
結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。
望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………?
※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。
※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。
※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる