キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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思い出と策略の日々 8

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「今なら、銀嶺の国の者と通じていた、と言える証拠があるのにねぇ……」

 淨春院は首を横に振りつつ、茶碗に手を伸ばした。

 淨春院が銀嶺の者と通じていなかった証拠ならある、とじっと大人しく伏せて話を聞いていた楓へ視線を向けようとした秋弦は、視界の端に何かを捉えた。

 確かめるより先に、楓がピンと耳を立てて飛び起きたかと思うと、白い身体が宙を舞って、淨春院へ激突する。

「あっ」

 楓に突き飛ばされるような格好で後ろ向きに倒れ込んだ淨春院の手から舞った茶が、楓に降りかかった。

「きゃんっ」

 すべては、一瞬のことだった。

 湯気の上がる熱い茶を被った楓が、悲鳴を上げてのたうちまわる姿に、ようやく秋弦は我に返った。

「楓っ!」

 楓は、慌てて駆け寄ろうとした秋弦の手を逃れ、部屋の隅で蹲る。

『触っては駄目ですっ!』

「なんてこったい……春之助っ! 水をっ! ああ、もう、馬鹿だねぇ……」

 淨春院も慌てて駆け寄り、触れては駄目だと暴れる楓に大丈夫だと言い聞かせ、春之助の差し出した手拭を水に浸して、すっかり楓の毛皮が濡れそぼつまで拭い続けた。

「もう、大丈夫だろ……」

 ぐったりした楓の白い毛並みは、ちょうど尻尾の上あたり、もろに茶がかかった場所の皮膚が赤くただれて毛がわずかに抜けてしまっていた。

 春之助は奥医師を呼びに行ったが、獣は専門外だ。どこまで診立てができるかわからない。

「楓……どうしてこんな真似を?」

『ごめんなさい……秋弦さま』

 謝ったきり口を噤んだ楓に代わって、淨春院が口を開いた。

「私のせいだよ。きれいさっぱりおさらばしようと思ったんだけどねぇ……」

「まさか……毒を?」
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