キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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思い出と策略の日々 6

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「そ、んな……そんなはずはっ!」

 春之助が、犯人は淨春院のはずで、そうでなければならないのだと叫ぶ。
 混乱する春之助に、淨春院は顔をしかめた。

「今は大事な話の最中だ。おまえの罵声はあとで聞くから、ちょっとお待ち」

「なっ……」

 淨春院は、沈黙する秋弦にまだ話は終わっていないと先を続けた。

「お光があんたを殺そうとしていたのは、神様のせいだよ。銀嶺の国で崇められている真神(まかみ)は、自分が気に入った女の産む赤子に乗り移ってこの世に現れることがあるらしくてね。そういった赤子が生まれると、真神と通じている者として神殿……こっちでいう神社が母親から取り上げて、偉い神官……まぁ神主のようなものにする」

『つまり……秋弦さまがその神様の赤子なのですか?』

 楓の問いに、淨春院が頷く。

「完全に神様を下ろすためには、人間の器以外は邪魔になるんだそうだ。命が危険にさらされると目覚め、そのまま死ねば神がその身体を乗っ取るというわけさ。銀嶺の国の者は、照葉の国の者よりずっと信心深くて、神通力やら魔物やらといった不可思議なことも信じている。あそこのお殿さまは、真神さまの神官とやらに頭が上がらないそうだ」

 あまりにも荒唐無稽な話に思われたが、昨夜の出来事もあり、秋弦は笑い飛ばせなかった。

 幼い頃から、頻繁に命を狙われていたこと、元照魔鏡に映った姿にも説明がつく。
 自覚はまるでないが、信じられない根拠より、信じざるを得ない根拠のほうがはるかに多い。

「まぁ、お光は……自分が産んだ息子がこの国に受け入れられないのなら、神様に捧げようと思ったのかもしれないねぇ」

 淨春院の言葉に、秋弦はそうではないと自嘲した。

「神に身も心も捧げた巫女ならば、むしろ自分の産んだ子を喜んで神へ差し出そうとするだろう。真神とかいうものの神使と通じていたのが何よりの証拠だ」

「まぁ、どっちにしろ、私には理解できない話だね。母親は、命を懸けても子を守るものだ。異形だろうと、何だろうと、この国に住まう者すべてを守るのが、照葉の国主の妻の務めだ。それを怠ったものには、それ相応の報いがあってしかるべき。あんたの母親を殺したことを、私は少しも後悔しちゃいない」
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