キツネつきのお殿さま

唯純 楽

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思い出と策略の日々 4

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 ――かどわかしにあった日の朝。

 ついひと月前に元服して諱(いみな)をもらい、今まで以上に理想の世継ぎでなくてはならなくなった秋弦は、川で泳ぐ夢を見て飛び起きた。

 寝る前についお茶を飲み過ぎたのがいけなかった。

 間一髪で起き出して、慌てて厠で小用を足し、寝所へ戻ろうとしたところで誰かに背後から口を塞がれ、抱えられた。

 城の中には、得体の知れない人間はおいそれと忍び込めない。

 たとえどうにか忍び込めたとしても、影と呼ばれる特別な任務に就いている者たちが不審なものがいないかどうかを常に見張っているから、目的を果たす前に捕らえられる。

 秋弦が寝起きしている付近に立ち入ることができる人間は限られており、細い腕や背中に触れた柔らかな胸の感触から、女性だろうと思われた。

 しかも、何となく覚えのある匂いがする。

 その匂いのもとを探して記憶を辿ろうとしているうちに、駕籠に放り込まれて城の外へと連れ出されてしまった。


「その匂い袋と同じ匂いがする人物によって、口を塞がれ、御駕籠台まで引き摺られ、そこから城の外へと連れ出された」

「顔は見ていないんだろう?」

「見なくてもわかる。その香は、照葉の国主の妻のために――母のために、父が作らせたものだ」

 春之助が息を呑む音が聞こえ、しん、と静まり返った部屋に、やがて淨春院の溜息が落ちた。

「忘れていたほうがいいこともあるんだよ」

「忘れていたわけではない。ただ……信じたくなかっただけだ。本当は、ずっと前から薄々気付いていたことを、確かめたくなかっただけだ。臆病で、卑怯な私のせいで……あなたに、罪を被せてしまった。申し訳ない……」

 秋弦が頭を下げようとすると、「やめておくれよっ!」と淨春院が叫んだ。

「国主が、罪を犯した側室ごときに頭を下げるんじゃないよ」

「だが……」

「十年前の真相は、そうだったかもしれない。でも、五年前の真相は……どう説明する気だい?」

「それは……」

 秋弦も、五年前、毒を盛ったのが母ではないかと思っているが、どうして自分の茶にも毒を入れたのかは、わからなかった。

 だが、淨春院の仕業ではないだろうと思っていた。証拠はないが、そう思う根拠がある。

 ところが、淨春院は自分がやったと言い張った。

「毒を盛ったのは、私だよ」
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